雄くんは、小さな頭を振りながらキャーッと声を出して笑う。

エリー、私がいるからバーベキュー行かないのかな。
私のことは気にしなくていいのに。
この試合まで見たら、ちゃんと一人で帰れるのに。



「もしよかったら、そちらのお友達も来られてもいいですし。」


いや、いいです。
お友達は大人しく帰りますから。

明らかに冷たさを含んだ物言いに、唇を噛んで下を向いていると________







エ「俺が嫌なんです。俺が、今日は彼女と二人で過ごしたくて。」



“彼女”?

私のこと?


思わず、顔が持ち上がった。
ただの代名詞かも知れないその言葉に、早とちりした心が反応してしまう。



「えっと・・・彼女・・・さん、なんですか?」

その人の質問に、たぶん私の方がエリーの顔色を探した。


エ「はい。お付き合いしてます。」

『なっ!!!』


急に出た私の大声に、雄くんがまたネズミのゴム人形を落とす。


『してない、してないっ。汗』

「そうなんだ・・・」


私の、ほぼ吐息のような絞り出した声はその人の耳に届くはずもなく。

打ちひしがれたような表情で立ち尽くすその人は、人妻や母親を超えて女性の顔になっていた。


やっぱりこの人、エリーのこと“好き”なのかも・・・

なんだかズンと胃が重くなった。

















『なんであんなこと言ったの?』


抗菌のウエットティッシュで、雄くんのゴム人形を丁寧に拭き取るエリーに躙り寄る。

確かに少し感じ悪い人だった・・・けど、やっぱり少し可哀想だった。
もしかしたら、息子さんはいるけど独り身かもしれない。そしたら立場は私と一緒じゃない。


『こんなこと言うのもあれだけど・・・
エリーに好意があるのかもしれないよ?
それを、私と付き合ってるなんてデタラメで・・・まぁ、どんな状況の人か分からないけどね。』


もし旦那さんがいたら。浮気とか不倫とか、ややこしいことになるもんね。
それは勿論、良くないけれど。

だけど、あの表情は________




エ「佐伯さんはシングルマザーだよ。
前に好きだって言ってもらった。」

『そ、そうなの?!』


予想しておきながら、そう言われるとそう言われたで狼狽える。
やっぱりあの人、エリーのこと好きだったんだ・・・

あれ?

なんで、“狼狽える”??



エ「もう何度か断ってるんだよ。俺にはその気がないから。
それに今日は、藤澤にアタリが強い気がして気になった。」

『それは・・・』


なんで気付いたの?エリーは私の方、見えていなかったはずなのに。


エ「気持ちがない人に適当に接するのが正しいとは思わない。」