隣町のチームを相手に、練習試合が始まると。
エリーは私と雄くんの隣に腰掛けて、丁寧に状況を解説してくれる。
傷痕が覗く膝小僧と。時々ペットボトルの水を煽る喉ボトケ。唇から伝う滴を気にも止めない無防備。
最初は、すぐ近くにあるそれだけでソワソワ落ち着かなかった。
「で、今の9番が________」
『あぁ!なるほど!!あれがミッドフィールダーの仕事?』
「そう。」
きっと、普段はあの子達を背番号なんかじゃなくて名前で呼んでるはず。
それを背番号で置き換えてくれる優しさが嬉しい。
私の、ために。
それは妙に心地良い、くすぐったさで。
『へくしっ、』
「寒い?」
『ううん、なんか鼻がムズムズしただ、』
私の返事が終わる前に、エリーの身体を離れたばかりのパーカーが肩に降ってくる。
いつもと変わらない、さり気なさ。
寒くないけど。寒いってことにしておこう。
溢れたエリーの香りが嬉しくて、裾を強く引き寄せた。
「江里センセ♡」
黄色い声が降って来た。
立ち上がるエリーにつられて、私の視線も上がる。
エ「ああ、お疲れ様です。応援ですか?」
「いつも息子がお世話になってます♡これ・・・差し入れに焼いたんです。良かったらぜひ召し上がってください♡」
エ「わぁ、ありがとうございます。後で柳田と食います。」
綺麗な人だな。
息子っていうことは、これで人妻?母なの?
スキニーデニムに包まれた脚はきっと細くて、高いヒールが華奢に背伸びをした。
年も、私とそんなに変わらないくらいなんじゃないかな。
私の年齢。
もう結婚してても子供がいても、ちっともおかしくない年齢なんだよね、きっと。
行き先の分からない、後ろめたさが広がる。
目が合った。
慌てて頭を下げると、彼女は一瞬表情を失くして。
「この後のバーベキュー、江里センセイも来れます?」
視線をエリーに戻して、栗色の巻髪を柔らかくはらった。
エ「あー・・・バーベキューは、ちょっと。今日は予定があるんです。」
「えーっ!そうなんですかぁ?!」
バーベキューがあるんだ。
行けばいいのに。
なんだか、心が沈んで。雄くんを乗せた膝を、トントンと上下に揺すった。