待って待って、待って!
エロかった?!エリーが?しかも、“くっそ”??

誰か別の人の間違いじゃ・・・?
追加で質問をしようとして、不思議そうな顔で私を見上げている雄くんと目が合って。

なんとなく柳田さんから、雄くんを膝ごと遠ざけて、小声で聞いてみる。




『えろかったって、いうのはエリーが・・・?』

柳「うん。あいつの中学の時のアダ名、“エロ人(エロヒト)”と“KY”だからね。」


エロ人・・・。汗
だけど、KYという意外な響きも気になって。
落ちてしまった雄くんのオモチャを拾おうと伸ばした手は、柳田さんの大きな手に先を越された。



柳「“KY”っていうのは、“空気読みすぎる”の方ね。」


柳田さんは、ネズミのゴム人形から丁寧に土をはらう。


柳「名付けたのは俺。あいつは、昔から自分のことになると途端に上手くできない。」


ゴム人形はピューと高い音を立てて鳴いて、雄くんは身を乗り出して触れようとする。


柳「空気を読みすぎるんだよ。
欲しいなら欲しいって手を伸ばせばいいのに、いちいち相手の顔色読むんだよ。
結果、なんだかんだがんじがらめになってあいつは自分を引っ込める。ダセェんだよなぁ。」



柳田さんの口ぶりはぶっきらぼうだったけれど。歴史と愛が、ちゃんとにじんでた。

自分を引っ込める。
なんだか、そうしてきたエリーを幾度も見てきたような気がした。






柳「藤澤さんが、あいつが見せようとするあいつ以外にも知ってくれたら嬉しい。
エロいし雑だししょーもない奴なんだけど、」


青空を流れてきた雲が、ムクリと太陽にかかって。
暗くなった視界は、何か重大な秘密を含んだようで。





柳「藤澤さんの期待は、きっと裏切らないから。」


去って行く雲のせいで。明るく晴れていく視界と柳田さんの言葉は、胸がギュッと鳴るほどマッチして。


私がエリーに期待してきた事。
エリーが裏切らなかった、私の期待。











「ふじさわー!」


エリーの声で、顔を上げる。

ゴールを決めたのかもしれない。
エリーは走り回る子供たちの中で、ネットの前でガッツポーズをするように拳を突き上げて。

いつもと変わらない、泣けるほどに温かい笑顔で。





手を振り返す。

ますます晴れていく視界に、眩しく目を細めながら。