ガラス扉を抜けて、エントランスを出たところで。
振り返った笑顔に息が止まった。
「おはよ。」
『お、おはよ・・・』
朝日の下、エリーはブラックのTシャツにゆるめのデニム。
デニムには、激しすぎないダメージ加工が施してあって。おそらくクロムハーツであろう首元のシルバーアクセが、朝の光を反射した。
エリーには、白のイメージが強かった。
白いワイシャツや、柔らかい色のネクタイや。
だから、“爽やかな王子様”のイメージを裏切るオフの姿と、その裏切りがとても正解であることに。
反射的に、『かっこいい』と浮かんでしまって。
「すげぇ晴れたね。」
気持ち良さそうに空を仰ぐ横顔も、直視出来ない。
そうだね、と小さく呟いてスニーカーの爪先を無意味にアスファルトへ叩いた。
どうしよう、髪巻いてくればよかった!
なんだか今日のエリーの完成度に対して、自分がすっごく粗末に感じる。
________って、どうした私!汗
デートじゃないんだから。エリーは友達!落ち着け、私!
当たり前に開けてくれた車のドアを、キューキュー騒ぐ胸を押さえつけながら潜り乗った。
エリーが車を持ってることも知らなかった。
迎えに来る、なんて言われても。いつもの会社帰りの待ち合わせ感覚だったのかもしれない。
オフの姿や、この距離で並べば必然的にエリーの香りを知ってしまうことも想像することはなくて。
だから、突如訪れたこの事態に私は到底追いつけなくて。
「15分くらいで着くから。」
運転席を見て返事をすることができない。
『はーい!』らしくなく、異様に明るく返した声は裏返ってしまった。
控えめなボリュームで、ゆるく音楽がかかっていることに気付く。洋楽?かと思えば、ところどころ日本語が聞こえる気がして。
透明なハスキーボイスに、疾走感のあるメロディ。好きな感じだな、と思った。
「あ、スタバ寄っていい?」
『うん!』
そう言えば、この前眞子と飲んだ桜フラペチーノが美味しかった。
春の季節限定メニュー。まだあるかな・・・
・・・
・・・って!スタバ!
『エリー、コーヒー買うの?!』
「うん。あとなんかパンとか買おっかな〜。朝、食ってないんだよね。」
「藤澤は何にする?」という振り向きを、私の『これっ!』と差し出した紙袋が制止させた。
『もし良ければ、なんだけど。ホットサンド持って来たの。あと紅茶もあって・・・
これで良ければなんだけど、朝ご飯に食べない?』
「え?藤澤が作ったの?」
『うん。適当に作ったから、美味しいか分かんないけど。』
「まじか!すげぇ!すげぇ嬉しい!!」
間髪入れずに隣で弾けた、期待を遥かに超える大きな笑顔に。
これでもかと言うほど、頭に血が昇る。