緩んだワイシャツの胸元から覗く、首元の窪み。
大きな手は華奢で、長い指が枝豆を摘み上げる。
額に落ちる前髪は薄茶色で、伏せた睫毛が透ける頬に影を落として。
視線は何処を定めるでもなく、ただぼんやり夜闇を泳ぐ。赤く濡れた唇に、黄緑色のビーンズが噛み付かれていく________
エ「・・・なに?」
『べ、べつに。』
急に繋がった視線に、汗が湧いた。
女子が盗み見たくなるのも分かる。わたしだって、こう改めてまじまじ見てみると。
エリーってつくづく格好良い。格好良いを通し越して、むしろ綺麗というか。
エ「眠いの?笑」
『眠くないっ。』
エ「寝んなよ。」
綺麗を通り越して、妖艶というか。
『だから、ねむ』
エ「寝たらキスするよ。」
________________え?!?!
眞「見て、十和ぁ♡大量〜!!」
エリーと眞子の声は、0.1秒だけズレて綺麗に重なった。
私は親友二人の間で硬直する。
いや、ちょっと待って。
は?え?キス?!いまの最後、エリーはキスって言った?!
眞「ほら、受け取ってよ〜!重いっ。」
『ああ、う、うん・・・』
蟹が溢れる大皿を両手で受け取る。眞子に相槌を打ちながらエリーを盗み見るけど、いつもの笑顔で廣井さんに肩を叩かれていた。
なんで?ねぇ。
キス?キスって言ったよね、絶対。
どうしてエリーがキスなんて言うの?私に。
どうして、こんなに。
キスの響きに、心が騒つくの?
なに、この。
甘い緊張感は。
廣「藤澤。」
『は、はぃっ!』
焦る。今度はエリーを盗み見てたことがバレたんじゃないかと思って。
どうした、落ち着け私!汗
廣「お前さ、サッカー観たことあるのか?」
『観たことは、ありますけど・・・』
どちらかと言うと、野球派だった。柊介が野球の方が好きだったから。
眞「ルールとか、ちゃんと分かってる?」
『さすがにそれは!手を使っちゃだめで、ゴールしたら点が入るんでしょ?』
吹き出したのは、エリーだった。
『な、なに・・・?』
ムッとして、軽く睨みつければ。
エ「ごめん、可愛いなと思って。」
予想しなかった甘い返答に、熱が上がる。
“可愛いな”
いかん!落ち着け私!!
廣「すげー不安なんだけど、その回答。
今回牧役員の気合の入りよう、半端じゃないだろ?ちょっと勉強しといたほうがいいんじゃない?」
『勉強と言っても・・・勉強しとかないと困るようなこと、させられるんですかね?』
廣「俺らには優勝以外あり得ないくらいの気迫だぞ。負けたら来年海営に配賦する予算減らすって脅されてるし。
基本的なルールくらい、抑えてたほうがいいんじゃない?反則とかもいろいろあるし。」
エ「教えてあげようか?総監督。」