使徒は雨音に隠れて _5
薬局のビニール袋の中には、生理痛の薬が5箱も入っていた。
商店街のあの小さな薬局で、柊介がこのナリで。棚にあるだけ全部買って来たんだと思ったら、不謹慎にも少し笑えた。
「ほら、水飲んで。」
まるで重病患者のように、丁寧に背中を支えられたまま水を飲まされる。
柊介は、真剣な表情で箱の裏を確認した後。丁寧に3粒の赤い薬をパウチから取り出した。
『……ありがとう、もう大丈夫だよ。』
「痛みは?治った?」
そんなにすぐは効かないよ、と笑ったら。
そうだな、とはにかんだ。
左手が不自然に少し浮いて、膝の上に戻ったのが見えた。
きっと、髪を撫でようとして止めたんだと思った。
『ごめんね、助かった。』
「昼に、社食で小堺さんとすれ違ったんだ。そしたら十和子が体調不良で休んでるって教えてくれて。」
またっ?!あの狸課長めっ…!
個人情報を勝手にペラペラと!怒
「外出の予定があったから、携帯を鳴らしてみたんだけど。一向に出ないからさ。
何となく胸騒ぎがして来てみたら、玄関で倒れてるだろ。」
『倒れてたわけじゃなくて、多分ちょっと寝ちゃってたんだと思う。
ご心配おかけしました。笑』
微笑んで首を振る。来て良かった、と呟いた声が優しくて。
鼻先までブランケットに隠れた。
『Tops……あれ、買って来てくれたの?』
「……ああ!そう、出先が赤坂だったんだ。前を通りかかった時に十和子を思い出して。好きだったろ?」
ブランケットの中で頷く。
「いま食べる?」
首を振ると。
「冷蔵庫借りるよ。」そう言って立ち上がった柊介の背中を、目で追った。
キッチンに向かう途中のソファに、脱いだジャケットをかけたのが見えて。
今の柊介なら。
今の柊介になら、フラットな気持ちで伝えられそうな気がした。
『……柊介、仕事は?まだ時間大丈夫?』
「ああ、今日のアポはもう終わったから。帰社するだけだよ。」
姿は見えないまま、声だけが返事をする。
『あのね……ちょっと、話したいことがあるんだけど。』
返事がない。
耳を澄ましたけど、あるのは柊介の気配だけだった。
聞こえなかったかな……?
もう一度口を開こうとした時、キッチンの死角から柊介の姿が見えた。
近づいて来る、最愛だった人。
熱っぽい眼差しに、綺麗に上がった口角。
「うん。俺も、少し話せればいいなといま思ってた。」