使徒は雨音に隠れて _4




柊介…?

なんで?なんでここにいるの?



「十和子!大丈夫か?!」

『だ…じょぶ。』

「どうした?!気分は?!」



燃えた瞳。潤んでる。

首を振る。大丈夫、今はお腹痛くない。



『なんでここにいるの…?』

「運ぶよ。」



逞しい腕が背中の下に差し込まれる。
軽々持ち上がった身体。反動で後ろに傾いた頭が、厚い胸に抱きとめられた。

立ち上がる、BVLGARIのプールオム。何度も嗅ぎ慣れた柊介の匂い。


視界はリビングから寝室へ。
何の迷いもなく身体を預けるこの感覚。おかげで、そっとベッドへ降ろされる瞬間、無意識に首元を引き寄せそうになってしまった。




「体調そんなに悪いのか?病院は?連れて行こうか。」

『……大丈夫だよ。』

「大丈夫なわけないだろう、あんなところで倒れて。」

『ちょっと……』




余談を許さない表情。私の身体の安否しか耳にしない決意。
その熱さに、諦めに似た気持ちで目をそらす。



『……お腹が、痛くて。』

「おなか……?」



三年の付き合いが、すぐに彼を思い当たらせる。


「……ああ。薬は?飲んだ?」

『切らしちゃってたの。買いに行こうと思ったんだけど、そしたらまた痛くなって。』


そんなことより、何でここにいるの?
仕事は?

そう声をかけようとした時には、彼は跪きから立ち上がっていた。



「買ってくるよ。」

『え、ちょっ、柊介、仕事は?てか何でここにいるの?』

「話は後だ。鍵は持ってるから、かけていく。そのまま寝てて。」


鍵。持ってる。


『そっか……。』


事態を理解した呟きは、玄関ドアが閉まる音で掻き消された。





合鍵。渡してた鍵を使って、入って来たんだ。

けどなんで?初っ端から「体調そんなに悪いのか?」って言ったよね?
もしかして、今日私が仕事休んだのを知ってて来た_________?


急に静かになった部屋の中で。ふと、柊介の出て行った玄関に目をやると。




『ん……?』

白っぽい何かが壁際に落ちてる。
なんだろう、あれ……?

目を凝らして見る。それでも掴めなくて、ベッドサイドの眼鏡を手探りで探し当ててもう一度目を細める。


白地に、水色の水玉……?
いや、水玉じゃなくて……




『………!』


Topsのチーズケーキ。
あの袋は、Topsの袋だ。中身はチーズケーキ。

私の、大好物の。Topsのチーズケーキの袋だ。



不思議なもので、食欲のない時にもあの酸味なら欲しくなる。
レモンの香り、喉を落ちて行くチーズの固さまでも大好きで。

食の細かった小さい頃から、このチーズケーキならペロリと平らげることができた。
私にとって、弱った時のお守りのような存在。







目頭が音を立てた。

間違いない。

柊介は、私が弱ってるのを知っててやって来た。