水曜日の憂鬱 _ 6



身体に思うように力が入らない。
温かいはずの行為なのに、もう何もかもが情けなくて悔しくて堪らない。



『もうやだ、離してっ…』


背後で、大きな笑い声が響いた。女の人たちが何かを笑い合う声。
騒がしさがこちらに向かって来てる。



『人が来てますっ…』

「いいから。気分は?」


起き上がろうとした動きを、逆に押さえられる。

情けなさは増殖して。
だんだん近づいてくるヒールの音と気配に、感情が込み上げる。




『…せ、…なくせにっ…』

「は?」


こんな腕の中からは立ち上がりたい。
それなのに、事切れた心は言うことを聞かない。

私が寄りかかったくらいじゃビクともしない腕の力。この人の体温が、孤独を煽る。
欲しい場所はここじゃないのに。

帰りたかった場所は、ここじゃないのに。


もう誰のことも信じられない。
何も見たくないし、何も聞きたくない…!






『どうせ八坂さんなんて、私のこと見世物にして面白がってるだけなくせにっ…!』



自分の声が人気のない廊下で破れた。

強く唇を噛み締めたのに、呆気なく頬を涙が伝った。

荒くなった呼吸に、胸が跳ねて苦しい。

返事をしない八坂さんに、反射的に視線を上げると。








寄せた眉の下、細めた瞳と目が合った。

あ、怒ってる______________






そう、思った瞬間。
強く引かれた手首に、前のめりに身体が浮いたような感覚。

壁沿いの会議室のドアノブを掴む八坂さんが、音のない空間でスローモーションに見えた。

彼の背中と、後ろ手に私を引く腕と、そこに繋がる私の手首。

ドアの向こう、暗闇に吸い込まれていく彼の大きな背中。







なんで______________?







そう思った時にはもう、会議室の闇の中、ドアが閉まる音が響いて。






八坂さんの腕の中、抱き締められていた。