水曜日の憂鬱 _ 1





午後からは、激しい雨が降った。
傘は持って来たけど、こんな雨だと足元が濡れちゃうな。
ジミーチュウのスエードレザー。あれ、ちゃんと防水スプレーしてたっけ。
こんなことなら、思い切ってレインシューズにすればよかった。


窓の外を伺いながら歩く、経理課からの帰り道。思わぬ人とすれ違った。




「お、藤澤。」

『…廣井さん!』


すっかり髪を小綺麗に整えて。だけど柔らかい質感と明るい色味はそのままに。

敢えてコンパクトなラインのスーツを選んでいることが正解で、廣井さんは日本のドレスコードを守ってもやっぱりオシャレ番長だった。




『まだいたんですか?!』

「…その捨て台詞と、そぐわない嬉しそうな表情。
お前の本心はどっちなんだよ。笑」


嬉しいに決まってる!廣井さんの存在をすっかり忘れてた。
まだ水曜日、エリーが帰って来る金曜日までは遠い。
頼れる兄貴に話して、いろいろスッキリしたい。



『喜んでるんです、こう見えて!
廣井さん、聞いて欲しいことがあるんですよー。
ご飯行けません?今日とか明日とか。』

「あー、悪い。俺明日戻るんだよ。
今日はちょっと、先約があってさ。」


そうなんだ…残念。
もっと早く廣井さんのこと思い出せばよかった。


『次はいつ日本に来るんですか?』

「月末だな。次は、海営に配属される時。」


海営。その響きに、また八坂さんが浮かぶ。
そっか、廣井さんは八坂さんの直属の上司になるんだ。
じゃあ話さない方がいいのかな…



「そんな目に見えてがっかりすんなよ。
嬉しいじゃねーか!笑」

『あはは。次に会う時は廣井課長って呼ばなきゃですね〜。』

「あ、そうだ。良ければお前も来る?」

『え?何にですか?』



廣井さんが手元の大きな手帳を開く。モンブランのボールペンが可愛くて、さすがだなぁなんて感心していると。



「5/2、俺の歓迎会を課で開いてもらうことになってるんだけど。有志らしいから、藤澤も来れば?」

『なんで?なんで私?眞子じゃなくて?』

海営の皆さんとの飲み会を熱望してたのは、眞子の方。


「顔合わせしといた方がいいだろ。うちのやつらともう面識あるなら、別にいいけど。」


え?面識?何の話?

焦点が掴めずフワつく私に、今度は廣井さんが驚く番。



「なに、聞いてないの?」

『聞く…?なにも聞いてません、けど。』


次の廣井さんの言葉に、耳を疑った。




「5月の社外対抗のサッカー大会、秘書課からは牧役員と藤澤が出るって聞いたけど。」