ルージュ・ココ・スティロ _ 10
オレンジ色の間接照明のせいで、クリームチーズまで火が灯ったように色づいて見えた。
“お前しかいないんだよ。”
耳に蘇る、熱い騒めき。
思い違いでなければ、もしかしたらこの擽ったさは。
多分、ときめきだ。
「清宮さん優勢で終わったもんね。八坂さんは次、どう出るのかな〜♪」
『優勢…。』
そういえば、私は社食を出る時八坂さんの顔を見れなかった。
ボディガード眞子にがっちり肩を抱かれて、顔を隠されるようにして社食を出たから。
最後の彼は。
どんな顔をしていたんだろう__________
「そういえばね、後輩の子が言ってたんだけど。
清宮さんが、週末銀座のハリーから出て来るの見た人がいるって。」
『ハリー…は、はりー?!』
“銀座のハリー”。思い違いでないのなら、そこは。
「そう、ハリー・ウィンストンね。」
チカチカする視界を払おうと、必死で瞬きを繰り返す。
「社内での噂は、単純に十和たちが付き合ってるっていう話に留まらず。
結婚するんだっていうテイで進んでるよ。」
『待ってよ、週末ってこの前の?
おかしくない?私その前日くらいに、柊介のこと浮気を責めて追い返してるんだよ?』
気持ち悪い、なんて。酷い台詞を浴びせて。
『まさか、あの浮気相手に…?!』
「それはない。万が一そうだったなら、それこそこんな十和子と別れにくい状況にはしてないでしょう。」
絶句する。一体何がどうなってそうなっちゃったのか。
柊介の中で、何が起きているのか全くついていけない。
「清宮さん、もしかしてどMなの?」
『どM?』
「うん。振られるかもしれない状況下で婚約指輪でも買ったなら、相当などMかなと。」
『…いや、どMっていうよりかはむしろ。』
「やだー、何それ聞きたーい♡」
ムフッと前のめりになった眞子に、慌ててキティを口に運んだ。
いくつかの夜が浮かんで、額に汗を感じる。
まずい、思わず柊介の個人情報を漏らしてしまうところだった…。
「まぁ、仮にどMじゃないならさ。」
温くなったキティが、舌の上で紅く蕩ける。
「相当な策士だね。勝利を確信して疑わないんでしょう。」
喉を滑り落ちていく赤ワインの香り。
いつか柊介としたキスの感覚が思い出された。
「初めから十和子を手放す気なんて、さらさらないんだよ。」