#エリーside



それから三年後の夏。
君に思いを伝えようと思っていたその日。

“眞子の事が好きなんでしょう?”
期待に満ちた瞳で俺を見上げた君に、俺は情け無くも嘘をついた。

「なんで分かった?」

世紀の秘密に触れたような、君の表情は可愛くて。
これでいいんだと、何度も言い聞かせた。





じきに、うちの課にやって来る時の君の瞳が柊介さんを追っていることに気づいて、二人を引き合わせる事にした。
柊介さんの、君に関して探りを入れるような話し方にも十分に気づいていたから。


俺の見たことのない色のルージュをひいて、待ち合わせ場所に現れた君を。

緊張してる?と揶揄えば、エリーがいるから平気と笑った。



「ああ、好きだな」と。

痛みをもって、確かめた。
















今日、タクシーを降りて行ったのは、野次馬根性でも、「なんとなく」でもなく。

タクシーの中で藤澤に口付けようとした時。あの時、俺と柊介さんは間違いなく目が合った。

しまった、というミステイク感と。
猛烈な優越感。



だけど柊介さんには、そんなことはどうでもよくて。
直前のそれを知っていて、知らぬフリで藤澤に触れるあの人を見ていたら。衝動的な怒りが湧いたから。
怒りの矛先を向かわせる場所も分からないまま、首を突っ込むようなマネをしてしまった。






__________それにしても。

“八坂蒼甫”
君がその名前を口にする日が、こんなに早く来るなんて。

君が堕ちたコバルトブルーに、俺は届く事が出来るんだろうか。


あの夜、取り逃がしたコバルトブルーに。


今更この手を伸ばして。
届きたいと、願えるんだろうか。













春の夜の匂いが好きだ。
君と出会った季節、メトロノームだった君を思い出すから。




藤澤。

君は俺を、読み違えてばかりなんだよ。