駅前のイタリアンにいるよ、と。
雨が降り始めた夜の笹塚には、意外な顔ぶれがあった。
『廣井さんっ!』
思わず、店内に入るなり叫んでしまった。
通り側、大きな窓元の席から仔犬頭が振り返る。
相変わらずの、ふわふわな栗毛。
眞「遅ーい!」
ワイングラスを片手に頬づえを突く眞子は、なかなかに出来上がっている様子。
廣「藤澤、お疲れ。何飲む?」
『廣井さんも来てたんですね。なんかすっごく久しぶりな気がします。』
差し出してくれるドリンクメニューを受け取りながら。
廣「そうかぁ?」
眞「小さいからね。居ても見えなかったんじゃない?」
眞子の毒舌。
呆れた顔でため息を吐く廣井さんも、なんだか懐かしい。
『特に、この二人の並び。この感じが、久々な気がする。』
急に咳き込んだ廣井さん。
驚いて声をかけようとするのもつかの間、眞子に促されて届いたばかりのグラスを持った。
眞「じゃ、十和子も来たことだし改めましてカンパーイ!今日はね、廣井さんの奢りだから。ガンガン飲み食いしていいよ。」
『もう、またそんなこと言って・・・。』
眞「ほんとだもん。ご馳走させてくれって土下座されたんだもん。」
廣「その前のクダリを端折るなっ!汗」
その前の、クダリ?
意味深なツッコミが気になるも、喉を落ちるミントの香りに気を惹かれる。
仕事の後のフレッシュモヒートは最高だ。
特に、今日みたいな騒ついた1日の後では。
眞「十和を待ってる間、エリーの祝勝会でもしようかと思ったんだけど。何度電話しても出なかったのよ。
で、そのままオフィス出たら、ばったり廣井さんに会っちゃって。」
『ああ、エリーなら今日から九州出張だよ。』
眞「・・・。」
昨晩の電話でそう言ってた。
いつ帰って来るのかなぁ。今週はもう会えないのかなぁ。
瞬時にそう思った自分が恥ずかしくて、電話が切れた後も寝付けなかった。
あの夜から。
確実に変わった、友達以上の感情。
眞「ドヤ顔で言ってんじゃないよ、まったく。あとエロ目で回想に浸るのも禁止。」
『どっ、ドヤ顔なんてしてないっ!汗』
廣「祝勝会と言えば、だけど。清宮やったよなぁ。役員会議でも話題になってたよ。」
SUN!の巻頭見開き。
長い足を更に突き出して、足を組んでいた王者の姿が過った。
眞「どうでした?やっぱドヤ顔でした?」
廣「うん。覇者と呼んでくれって言われた。」