背中が冷えた。
喉を冷たい音が落ちて行った。


出過ぎた、真似を。

言う通りだ。
私たちの恋愛沙汰なんて、この人には関係ない。




『・・・申し訳、』

「それも要らない。全くもって申し訳無くないから。」



再び、下がりかけた姿勢は。




「君が幸せになれば、それで良い。業務以外で、僕が君に望むことがあるならそれくらいだ。」



静かな声色に引き止められる。
突然の意を、理解出来ない。



「座って?立ち話もなんだから。」



促されるまま、小堺課長席に腰を下ろす。

小さな溜め息。
私は、何も言えない。



「僕は、他人に口を出すのも出されるのも好きじゃない。
だから、これが最初で最後のつもりで言わせてもらうけれど。」



強い視線の牧さんと、真っ直ぐに目が合う。



「今回のことに関して言えば、君と清宮の間でだけ起きたことだから。そこに介入出来る人間は誰も居ないんだよ。
介入させるな、と言ってもいい。」



その瞳に。
私ではない、誰かへの非難が浮かんでいることに気付く。



「謝らなくていい、誰にも。
興味本位で噛み付いてくるような輩は、相手にしてはいけない。
君は君のことだけを考えて。毅然としていなさい。」




呆気に、取られた。

何もかもが、正しくて。
何もかもに、愛情が満ちていたから。





「僕の話は、これで終わり。
君は?」

『あのっ、』



つい、引き下がりそうになったけれど。

これだけは伝えねばと、もう一度頭を下げた。



『ありがとうございました。』