躊躇いを振り切って、打った“忙しいですよ”をそのまま送信した。
鳴かないポップアップ。
一呼吸も二呼吸も置いても、反応はない。
・・・本当のことだ。
本当に、今の私はめちゃくちゃに忙しい。
ティーカップに残った、冷めた紅茶を一気に呷る。
ハーニー&サンズのホットシナモンサンセット。
舌先では甘いのに、喉を通る瞬間には苦味が走る。
甘い香りで誘っておいて、触れれば痺れる。
誰かさんにそっくりだ。
「藤澤さん、東海営業部の瀬崎さんからだけど。どうする?」
先輩からの声かけで我に返る。
東海営業部。来週、牧さんが会議で出向くことになってる。
だけど、発信者は“あの”瀬崎さん。
噂好きのトラブルメーカー。柊介との交際が発覚した際も、何度か嫌味を言われたっけ。
『・・・出ます。』
溜め息を飲み込んで、そう答えた。
繋ぎます、と答える先輩の隣で姿勢を正した。
相変わらずに黙ったままのメールサーバーを、思い切って落とす。
待っているような気がして、そんな自分が癪だから。
本当に本当に、今日の私は忙しい。
誰かに言い訳るかのように繰り返して、待ち構えている受話器を取り上げた。