「いてて・・」



その声に我に返り、私は唇を離した。

エリー、足!汗


しゃがみ込んだまま、前のめりに突き合う相当に無理な姿勢。
私は平気だけど、怪我をしてるエリーは。



『ごめん!大丈夫?!』


慌てて離れようとした瞬間、触れられていた頸にクッと力がこもった。
逃がさない、とでも言うように。


「平気だから。」


熱い瞳。濡れた唇。低く聞こえる声。
AQUAの香り。こんなに、近く感じるなんて。



「来て、」




そんな囁き方、やめてほしい。

懲りずに、また求める唇。
睫毛の先に浮かぶエリーの顔は、息も詰まるほど綺麗で。



嗚呼。

私、このキスをやめられない________










『なっ、なに?!?!汗』

「あっ、しまった。」



突如鳴り響く大袈裟なブザー音。
空気を揺らすほどのその音量に、夢から醒めて耳を塞ぐ。



『なんの音?!汗』

「ビルが完全閉鎖になるんだ。0:00過ぎるとセキュリティが掛かるから、明日の朝まで出られなくなる。」

『出られなくなる?!』



っていうか、0:00?!
もうそんな時間だったんだ。

兎に角早く出なければ!!
閉じ込められるってことだよね?!?!



『はや、はやく、早く帰らなきゃ、』

「そんな慌てなくても大丈夫だよ。あと10分あるし。」



だって怪我してるじゃん!
走らせるわけにいかないじゃん!怒

焦りのあまり、無秩序に感じる怒りを堪える。




「それに俺は、」



そんな私を他所に、エリーは未だ床上のまま。
仔犬の瞳で、私を見上げる。



「今夜出られなくなっても、構わない。」



ボンッ、と。

消えるブザー音と入れ替わりに聞こえたのは、私の噴火音だった。
耳まで燃えて、言葉を失う。





『あた、あたしはっ・・・//
ほらっ、だって明日仕事だし、着替えとかあるし!』

「慌てすぎ。笑
ほら、出るよ。」



そんな私に素知らぬ顔で。

片足を引きずりながらも器用に身支度を終えたエリーは、さっさとフロアの施錠を終える。


なんだ、ジョークか・・・。






“なんだ、ジョークか・・・”?

いやいやいや!!!汗

何が、“なんだ”なの?ジョークで何を、がっかりしてるの??



「藤澤、」

『あっ、うん、』


邪念を吹き飛ばそうと、頭を振り払いながらエリーを追った。