エリーは、何も言わなかった。
あまりの静けさに、沈黙にも音がするんだと知る。
居たたまれなくなって、紙先にしがみ付いていた指先を離す。
怖くてエリーの顔が見れない。
もう、話したいことは済んだよね。
帰ろう!これ以上は、流石に心が折れる・・・
「待って。」
『・・・・・・!』
立ち上がろうとする気配を察したのか、向き合ってしゃがみ合う姿勢そのままに、手首を掴まれた。
体温に、心臓が跳ねる。
「別れたの?柊介さんと?」
頷く。まだ、顔が見れない。
「ちゃんと・・・、っていうか、完全に?」
頷く。落とす視線の先に、見慣れたエリーのデイトナ。
「それを、その足で、俺に伝えに来たの?」
頷く。“その足で”に、そっと力がこもったことに気付きながら。
「・・・藤澤。こっち見て。」
ゆっくりと上げた、視線は。
あまりに強い瞳に見据えられて、動けなくなった。
濡れた瞳は。
熱を灯して揺らめく。
暗がりで見るエリーの顔は、今までのどれにも知らない表情に見えて。
「・・・俺は今、これを。」
息さえ、浅くなる。
「自分の都合の良いように、解釈しようとしてるんだけど。」
わけもわからず、泣きそうになる。
「いいの?」
破裂しそう。
躊躇いも、思い遣りも、愛情も。
エリーの心が、手首を通して流れ込んでくるから。
唇を動かしたけれど、声は出なかった。
代わりに、また頬が一筋濡れた。
それが合図になったように、エリーが腰を浮かす。
“近いな”
そう思った時にはもう、半分閉じた瞼が目と鼻の先にあって。
エリーが探す先は、発しない私の口唇。
見つめられた口唇は、重なる間際なんかに間悪く答える。
『いいよ。』
噛み付かれ、た。
そう思った時にはもう、堕ちて行く。
ひどく甘く繰り返される啄ばみで。
2回目のキスは、初めてと同じだけもどかしいのに。
初めてよりも、ずっと深く煽られる。
水音が響いた。
こんな場所で、こんな時間に何をしてるんだろうと思う。
薄眼を開いた。息も止まる距離にエリーがいて、私はまたを安心を覚える。
頭を引き寄せられる。
深まるたびに、強く目を閉じる。
“いいよ”
何度でも、胸の奥でそう答えながら。