足が竦んだ。
“で?”
耳に纏わりつく重さ。
そうだよね。たしかに、ほんとそうだよね。
こんな話したって、今更なにって感じだよね。
全身の血の気が引いていく。
『いや、別にそれだけなんだけど・・・、』
こんなところまで、ヒーロー面して追いかけて来て。
押し付けがましく、言い放ったりして。
『ごめん、それだけ。』
馬鹿みたいだ。
何を調子に乗っていたんだろう。
なんて、浅ましい。
「藤澤、」
『私帰るね、』
立ち昇る後悔に溺れそうに、なって。
『・・・きゃっ、』
「危ない!」
忽ちに消えようとしたのに、デスク脇の書類群に思いっきりぶつかってしまった。
舞い上がったペーパーが、ひらりひらりと落ちて行く。
積み上がる後悔に、比例して。
「大丈夫?」
『平気。』
片足で駆け寄ってくれるエリーに、背を向けて涙目を隠す。
『あっ、・・・これ順番ってあったのかな・・・。』
「やるから、貸して。」
いとも簡単に取り上げられてしまった。
またしても、私の溢した迷惑を丸ごとに。
影を落とす長い睫毛を見つめながら、微動だに出来ない。
胸が締め付けられる。
本当に、今日もこれでいいのかと。
「えっと・・・あっ、それも貸して。」
かろうじて掴んでいた1枚を指されて。
おずおずと差し出す中で、ほんの少し指先が触れた。
その温度は、凝り固まった情けなさを溶かすには十分で。
「え?」
すんでのところで、紙を離し切らなかった。
離さない1枚の紙先を挟んで、私とエリーが繋がる。
『私ね、』
大きな窓から漏れる月灯りが、エリーの濡れた瞳を照らす。
『柊介と別れたの。それだけなの。』
情けなくても、拒絶でも。
この人の返しがどうであれ構わない。
『それだけをエリーに伝えたくて、今夜ここに来たの。』
私が私を。
もう、間違えない。