一旦停止した脳が、フルで始動を開始する。
会社。
新宿だ。
慌てて、運転席へ行き先を補足する。
一番近いところで降ろしてもらって、走ればいい。
『ありがとう、眞子。』
“御礼を言われることは、何も。それに何度も言うけど、本当に会社に寄ったかは分かんないのよ。”
本当にって、どういう意味?
少し気を引かれながらも、流れ始めた見慣れた景色に胸が迅り出す。
“私は二人ともの事が大好きだからさ。そりゃあ、二人ともに満たされて欲しいけど。
そうならない事があっても仕方ないとは覚悟してる。”
他に返す言葉が思い付かなかった。
だから、求められていないとは分かりながらも。
『ありがとう、眞子。』
見えたビル先に、呼吸が苦しくなった。
あのどこかに、今夜エリーがいるなら。
ビル裏手の警備室に立ち寄って、所属と身分証を提示する。
眞子に教えてもらったとおり、保険証を出すと会社名の印字を確認してすんなり開けて貰えた。
仮のセキュリティカードを使って、ゲートをくぐる。後はフロアごとのパスコードで中へ入れる。
エレベーターの呼び出しボタンを押すと。一息つくどころか、ますます息が上がった気がした。
エリーは何階にいるんだろう。
休日の、しかも夜のオフィスなんて。
トビラが開いて広がる、予想以上の静寂と暗闇に、戸惑いを感じながらも。
躊躇ってはいられなかった。
こうしている間にも、エリーとすれ違ってしまったら。
______________もう二度と、すれ違いなんて起こしたくない。