柊介の話を伝えると。
ああ、それか、と。
眞子は小さな溜め息を吐いた。
“いちいち言わなくていいのにね、清宮さんも。”
『でも私は聞いてよかった。』
眞子の向こうで、夜風が大きく吹き抜けた。
“エリーに会ってどうするの?その件で御礼でも言うつもり?”
何処と無く、強い口調から。
“そんなの望んでないだろうし、余計に戸惑うだけだよ。
それに、十和も、だよ。期待持たせるような事したら、後で苦しくなるのも十和なんだよ?”
眞子らしい愛情配りを、間違いなく受け取る。
『御礼なんて言わない。』
満月に、目が合った。
『最初はね、ただ会いたいと思ったの。柊介から話を聞いて、すぐにエリーに会いたくなって。だから家を飛び出したの。』
“・・・だから、そういうのが期待を持たせるって、”
『でも、今はそうじゃないって分かる。私は多分、』
薄雲が、晴れて行く。
『柊介と別れた事を、誰よりも先ずエリーに伝えなきゃって思ってる。』
返事がない電話の向こうに。
『それが何になるのかも分からないし、意味があることなのかも分からない。
だけど今の私にとっては、』
確かに眞子の気配を感じる。
『そうすることが、今できるエリーへの“誠実”なの。』
バラバラに崩れていた積み木が、一つ一つ元の骨組みに積み上がるように。
言葉が気持ちを整理する頃には、夜空の満月はすっかり雲を晴らしていた。
鼻先を霞める、アクア。
いつも洗い立ての、エリーの香り。
身体がエリーを思い出している。
“・・・かいしゃ。”
『えっ?』
やっと聞こえた眞子の返事が、意識を現在に引き戻す。
“本当かどうか分かんないけど。
さっき別れた時、エリーはこれから会社に寄るって言ってた。”