流しのタクシーに飛び乗った。
行き先を聞かれて戸惑う。
エリーの家ってどの辺りだった?
運転席からの苛立ちに、とっさに『新宿まで』と伝える。とりあえず、新宿まで行っておけば何処に行くにも出やすいはず。
幾度かの発信は繋がらない。今夜、会えるかも分からない。
流れる車窓を横目に、そもそも会ってどうするんだろうと思う。
ゴメンねもありがとうも、エリーにはどちらも違う気がした。
だけど、ジッとしては居られなかった。
メイクポーチを持ち忘れたことに気付く。
昼間から直していないメイク。さっき見た姿見によると、髪だってボロボロ。
走ったから、もしかしたら汗臭いかも知れないし。
最悪だな。こんな姿で急に現れたら、エリーはどう思うだろう____
膝上で震えた携帯に飛び付く。光る画面には、エリーの名ではなく、“眞子”。
『もしもし?』
“やっほー!・・・ん?あれ?移動中?”
『うん、ちょっと・・・。どうしたの?』
“これからお茶できないかなと思ったんだけど。今日は難しいかな。”
『ごめんね、今日は・・・、何かあった?』
そういえば、朝の電話でも眞子は何か言いかけていたと思い当たる。
“ううん、全然。清宮さん、大丈夫だったかなと思って。”
『うん。大丈夫。ちゃんと別れたし、後悔してない。』
そっか、と。
静かに答えた眞子の向こうが、騒がしい。
『眞子は?今、外にいるの?』
腕時計は、20:00を指していた。
日曜のこの時間に外にいるなんて珍しい。
“うん。さっきまでエリーと飲んでたの。今帰ってると、”
『エリー?!エリーといるの?!』
思わず上がった大きな声に、バックミラーの中から視線が飛ぶ。
『今、エリーと一緒なの?!』
“いや、もうバイバイしたけど・・・、どうした?”
眞子の声にも、戸惑いの色。
『エリーに会いたくて。どうしても会いたいんだけど、電話が繋がらないの!』
“会いたい?電話?・・・十和、どうした?”
電話の向こうに、眞子の心配そうな顔が浮かぶのに。
息が詰まって、続く言葉が出てこない。
改めて。
こんなにも、エリーに会いたいんだと知る。