#眞子side


躊躇いまくって、やっとこさ切り出してみたのに。


エ「八坂さんは大学の先輩なんだよ。」


あっさりとそう答えて、エリーはまたグラスを空にした。


エ「なんで?なんか俺たち、変だった?」

眞「いや、変っていうか・・・なんか、距離が近そうだなっていうか。」

エ「そう?」

眞「ほら、前に“蒼甫さん”って呼んだりして。」



八坂さん、から、蒼甫さんに。
あの時確かに、二人の会話の温度は変わった。



エ「ああ・・・。大学の時、そう呼んでたからね。でも別にそれだけだよ。普通に挨拶を交わしたりする程度の仲。」


本当に?そんな程度の仲で、あんな感じになる?

甦る、社員食堂でのワンシーン。
懐かしさより、同郷のよしみより。
漂ったのは、張り詰めた緊迫感だった。


見ように、よっては。

エリーが何かを理由に、八坂さんに強気に食って掛かっているようにも見えた。八坂さんはさほど、気にしているようにも見えなかったけれど。





眞「・・・じゃあ、通院は?今日も連れて行ってくれたの、八坂さんなんでしょ?仲良しじゃないのに、そこまでする?」

エ「それは試合で勝つためだ。俺が治らなければ、蒼甫さ・・・八坂さんも困るからだよ。」



エリーにかかれば。
どんな容疑も、スラスラと気持ちよく解かれてしまう。
だけど私は、妙な引っかかりをまだ払えない。




エ「ごめん、俺この後、会社に寄らないといけなくてさ。」

眞「えっ、この後?!飲んだのに?てか日曜日だよ?」


エリーの視線が、自然に伝票へ辿る。
御開きなんだと、思考が悟る。


エ「明日の朝会までに仕上げないといけない資料があって。」

眞「一緒に行こっか?」

エ「いや、平気。寄って取るだけだけだから。」



あれよあれよと言う間に、エリーが会計を済ませてしまう。

私も、と慌てて財布を出したけれど。
いつものように首を振られて、今日は抵抗せずにバッグへ戻した。


なんだかソソクサと。

この場を仕舞えたがっているように見えたから。





外へ出て、タクシーに右手を上げる。
待っていたかのように、一台が流れてきてエリーの前で止まる。

当たり前に先に乗せてくれるエリーに甘えて、窓を開けて手を振ったけれど。


もうその頃には距離が出来ていて、その顔が笑っていたかは分からなかった。






街の明かりにエリーが溶けて、形が見えなくなる。


私が聞きたかったのは、八坂さんとの関係性なんかじゃない。
どうして八坂さんに、強い当たりを見せるのかということ。

どうして八坂さんに関わろうとすると、こんな頑なさを見せるのかということ。



革のシートに背を埋めて、溜息を吐いた。
不謹慎にも、その感触に廣井さんが浮かんだ。

大事な友達より、廣井さんなんかが浮かぶなんて。


やっぱり私、取り憑かれてる。