#眞子side


桃とモッツァレラを、器用にフォークで突き抜いて。
遠慮の無い大口に放り込んだと思ったら、豪快にビールを呷る。
グラスを離れた唇は濡れていて。舌先が口角の泡をなぞったら、無防備な視線は崩れたベビーリーフの山を捉えていた。


さっきから、隣のテーブルの女子が頬を染めて耳打ちし合っている。
当のエリーは、気付かない。



眞「よく食べるね。もうパスタ頼む?」

エ「ん〜。」


そんなに飲んで、よく酔わないね。
今更にそう声をかけたくなるほど、エリーの飲みっぷりは気持ちがいい。水のように、冷えたビールを呷る。


エ「どうしよっか。ピザでもいいけど?」


長い指先が、差し出すメニューを受け取る。
伏せた睫毛の長さと、細い輪郭の下の喉ボトケ。
このアンバランスさが、エリーの官能。



眞「あたし、エリーを好きにならなくて良かったわ。」


危うく、隣のテーブルの女子たちのように。この官能に、ただ指を咥えるところだった。


エ「は?笑
あ、蛍烏賊。美味そう。」


蛍烏賊を好きなのは、十和子。
改めて、このエリーに想われる十和子は大したものだと思う。

小さな蛍烏賊、一匹一匹みたいに。
エリーの唇に飛び込んでみたらいいのに、なんて。




エ「で?何処まで話したっけ。廣井さんが急にキャラ変したって?」

眞「あ、ああ、うん!」


フシダラな妄想を、慌てて咳払う。


眞「そーなんだよ。急に余裕たっぷりの、色男キャラになりやがったわけ。あのオドオドした下僕感は何処行った?!って感じで!」

エ「好きになったから、そう見えるんじゃないの。笑」

眞「ぬぁってないっ(なってない)!!!怒」


怒りの反論は、エリーの笑い声に掻き消された。