夕焼けに染まる横顔に、躊躇いが浮かんでいるのに気付いて。
妙な違和感を、悟る。
『・・・あの夜?あの夜って、何?』
瞳を逸らさないまま、小さなため息をついて。
柊介は唇を開いた。
柊「八坂と江里と、飲みに行った夜があったろう。」
『飲み・・・、ああ!私が途中で失礼した日?』
八坂さんが、誰かと話す電話を聞いてしまった。電話の向こうを想像してしまった。居たたまれなくなって、その場を逃げ出した。
そしたら、柊介が、一人抜けた私に気付いて____
柊「俺じゃないんだよ。」
『え?』
緩い回想が止まる。
柊「あの時、十和子が帰ったって気付いたのは、俺じゃないんだ。」
意味が、分からない。
だって追って来てくれたのは、柊介だったじゃない____
柊「気付いたのも、追いたかったのも、俺じゃないんだ。」
形の良い唇が。
震えているように、見えた。
『・・・え?ちょっと意味が分からない・・・。どういうこと?じゃあ一体誰が?どうして柊介が来てくれたの?』
一人、潰れそうな帰り道に。
寄り添ってくれたのが、柊介でなかったというなら。
私は身動き出来ずにいた。空気が揺れたら、この告白も揺れてしまう気がして。
また一つ、小さなため息。だけどそれを、決意のように響かせて。
柊「俺は自分の手柄かのように、十和を追って付き纏った。卑怯だよな。申し訳なかった。」
『ううん、そんな・・・』
そんなことより、じゃあ誰が?
そう続けなくても。
もう教えてくれると、熱い瞳が語っていた。
柊「江里だよ。」
浮かんだのは。
柊「十和子を一人にするなと言ったのは、江里だったんだ。」
泣けるほどに青い空の下で笑う、あの日のエリーだった。