ドアを開けた明日香ちゃんは。

長かった黒髪を肩まで切り落として。
だけど一層に、柔らかさを増しているような気がした。



明「うそ!十和ちゃん!来てくれたの?!」

『出産おめでとう!突然お邪魔してごめんね。』

明「何言ってるの、嬉しいよ!すっごく会いたかったんだもん!
ささ、入って入って!!」



グイっとドアを、より大きく開いてくれた明日香ちゃんに促されながらも。

静かなままの後ろを振り返れば、黙ったままの柊介の姿。
への字に曲がった唇と、バツの悪そうなしかめっ面。



『・・・ほら、柊介っ。』

柊「・・・。」



両手を後ろ手に組んだまま、渋々と靴を脱ぐ。



柊「_________やっぱりこういうのは十和子から、」

明「十和ちゃーん、コーヒーと紅茶どっちがいいー?」



リビングからの弾んだ声が、柊介の言葉を塞ぐ。



『お気遣いなくー!柊介と同じでお願いします!
はいっ、柊介もスリッパお借りして?』



それでも突っ立つ柊介の背中を押す。
穏やかな家庭の香りが溢れる廊下を抜けて、リビングに二人で歩を進めると。







『明日香ちゃん、これお土産にクッキー、・・・!』



視界に入った瞬間、息が止まった。

明日香ちゃんの腕の中で、桃色の肌着に包まれた小さな光。

それは予想よりも期待よりも、あまりに小さくて。あまりにも透明で、全身で虚弱で。



柊「おっ、美紅。起きてたか。」

明「ほら、美紅〜。十和ちゃん来てくれたよ。」



これは、私が“女”だからなのか。

その存在は、身体の真髄に真っ直ぐ飛び込んで来て。
反射したのは、言葉じゃなくて涙だった。




『ミク、ちゃんっていうの?可愛いね・・・。』


慌てて目頭を抑えて、そっと覗き込む。
声さえも彼女を圧してしまうのではないかと、自然と発声も密やかになった。



明「抱っこしてくれる?」

『いいの?!』

明「勿論だよ。はいっ、」

『えっ、けど私初めて抱っこするかも、』


特に、こんなに小さな赤ちゃん・・・、新生児は。


明「大丈夫大丈夫!私も初めてだったから。」