送る、という申し出を断れば。
最後だから、と微笑まれて頷くしかなくなった。
行き先が他にあるならそこまで、と言ってくれたけれど。
こんな気持ちで他に出歩く気にもなれず、ただ家路を頼んだ。
日曜の午後は緩く渋滞していて。
音楽のない車内には、二人の存在感が浮き彫りになった。
『柊介は、この後どうするの?』
柊介の行き先があるなら、その近くで降ろしてもらって構わない。
そんなつもりで、ふと尋ねてみる。
「俺は_________明日香のところに寄るつもり。」
明日香ちゃん。
寅次さんのご葬儀で見かけた、大きなお腹が浮かんだ。
赤ちゃん、どう?
そう聞こうと思ったところで。
「子供が生まれたからね。」
『えーっ!!!』
思わず、声が跳ねた。
柊介が驚いた顔で振り返る。
『いつ?!知らなかったよ、男の子?女の子?』
「えっと・・・、二週間前、かな。女の子。気を遣わせると思って、十和子には連絡しなかったのかもな。」
そんな・・・なんだか寂しい。
柊介と微妙な仲だったとはいえ、明日香ちゃんとの仲は、また別物。
気を遣わせる、なんて遠慮しないで欲しかった。
『女の子かぁ・・・可愛いだろうなぁ。明日香ちゃんに似てる?それとも旦那さん似?』
「それが、死ぬほど可愛くて俺も正直驚いてる。普通の乳児は、あんなに可愛くないはずなんだけど。
旦那には似てない。明日香に瓜二つだな。」
ほんとに?二週間で死ぬほど可愛くて、そのうえもう明日香ちゃんに瓜二つなんてあり得る?
そう思ったけれど、真顔な柊介の横顔は本心からそう感じているようだった。
なんだか可愛くて、口元が緩んでしまう。