柊介がもう二度と、寂しい思いなんてしなくて済むような人。

私なんかより、大人で懐が広くて_________



「何言ってるんだ。」



顔が上がったのは、運ばれてきた白茶の気配ではなくて、間髪入れぬ柊介の反応。

それは、「いやいや・・・」というような柔らかな謙遜の意味を含めるものではなくて。

気持ちの良いほど、あっさりとした否定色。



『え?』

「俺が十和子以外を愛する訳がないだろう。」

『はいっ?!?!汗』



素っ頓狂な声をあげた唇を、慌てて抑える。



『なんて?汗』


今、なんて言った?私の聞き間違い??

焦る私をつゆ知らず、柊介は涼しい顔でエスプレッソに口をつける。



『えっ・・・、だって、別れてくれるんだよね?』

「ああ、別れるよ。」

『・・・じゃ、じゃあ、』

「だけど十和子を諦めるとは一言も言ってない。」



はい?!?!汗

予測不能な事態に、更に慌てる私を他所に。
柊介は添えられたバターサブレに手を伸ばす。



「あ、これ美味いな。」

『ちょっ、ちょっと、ちょっと待って、』

「十和も食べてごらん。」

『いらん!!汗』



思いっきり突き返す反応で。
やっと柊介は、止まった。

目が合う。だけどその目は_________しっかり、すわっていた。



『おか、おかしくない?汗
諦めないって・・・だって私たち、別れるんだよ?上手くいかなかったから、別れるんだよ??』

「十和、何か勘違いしているようだけど。」



柊介がそっと。
バターサブレを1つ取り上げて、私のソーサーへ向かわせる。


「交際については二人で決めることだ。だから、今回は君の意向に従う。」



柊介の長い指先を離れるのは。
卵を塗られて、黄色に輝くサブレ。