日曜の午後の、広尾のカフェは混んでいて。
私たちは運良く、喧騒から離れた窓際の席に腰をおろして顔を合わせる。
思っていたより、柊介はずっと落ち着いていて。
一度も私の話を遮ることなく、黙って最後まで聞いてくれた。
柊「・・・。」
ただ、その後の反応がない。
長い足を組んだまま、背もたれに背を落として。エスプレッソにも、一度も手を付けない。
話の途中で外したサングラスは、Ray-Ban。その向こうの瞳は、何処か遠くを見ているようだった。だけど、弱々しくは見えなかった。
『・・・えっと、』
沈黙に耐え兼ねて、空になった紅茶のカップに指先を伸ばす。
『お代わり、頼んでいい?ここの白茶は、』
「分かったよ。」
メニューに触れた手が、止まった。
「分かった。別れよう。」
いいの?!、と。
飛び出しそうになった声を、慌てて飲み込む。
こんなに早く了承してもらえるなんて。
『しゅ、柊介の話は・・・、』
「俺の話はもうないよ。
この前の夜。あの夜、十和子に話した気持ちが俺の全てだ。」
跪いた残像が。
脳裏に走って、胸が重たく痛んだ。
「負けるつもりはなかったけど、駄目元だったのは事実。それだけの酷いことをしたのは俺だからね。どんな返事でも受け入れるつもりだったよ。」
何か言いたいのに、言葉が出て来ない。
通りすがる店員さんをつかまえた柊介は、私のティーカップを指して「同じものを。」と告げた。
店員さんの頬が染まるのを見逃せなかった。
それだけ柊介は素敵だ。
今だって。心からそう思うのに。
そう思う気持ちは、他人事のように軽くも感じる。
不意に目頭が熱くなって。眞子の言葉を思い出して、慌ててお水に手を伸ばした。
「ありがとう。ちゃんと会って、話をしてくれて。」
『そんな・・・、』
当たり前だ。
三年も本気で向き合った人なのだから。
だけど、それさえ感謝されるような距離になっていた。
『柊介に、私なんかよりずっと素敵な人が現れるように祈ってる。』
本心だった。
私なんかよりずっと。
上手に柔らかく、柊介を満たしてくれる人。