もしも、この唯一無二の親友が。



「喜怒哀楽を、溜めずに発散するようになったんじゃない?」


私が前より変わったと言うのなら。



『・・・それって、良いこと?』

「勿論!笑」



そしてそれが、良い方向だと言うのなら。



「今の十和の方が、正直でずーっと好きよ♡」



こんなに喜ばしいことは、無いと思う。




「てか、時間大丈夫?」




リップは、ルージュディオールのレッドスマイル。
口角からラインを取って、丁寧に唇を染め上げた。

最後の私は。
笑顔の私を、覚えておいてもらえるように。




『うん、もうそろそろ出ようかな。
そう言えば、眞子の話は何だったの?ごめんね、私の話ばっかりしちゃった。』


思い返せば、この着信は眞子から鳴らしてくれたものだった。


「あー・・・うん。まぁ、私の話は今日はいいや。」

『え〜?笑
何それ、大丈夫なの?急ぎじゃない?』

「うーん・・・うん。大丈夫。うん、大丈夫よ。」



歯切れの悪さが、引っかかりながらも。
秒針の指し示す時刻に、焦りを覚えたのも事実で。



「そうだ。十和、これだけは言っとく。
清宮さんが泣くのはともかく、あんたが泣くのはナシだからね。フっておいて泣くって、一番感じ悪いから。」

『うん・・・。分かった。気をつける。』



お見通しだなぁ。私の、ズルいところまで。

如何なる時も気の利く親友に、ひっそり感心しながら。


電話を置いて、出窓から外を見下ろして___________
すぐに気が付いて、首を振った。


柊介との待ち合わせは、いつも私の家の前で。車で迎えに来てくれる彼に、私は甘えてばかりだった。

今日の待ち合わせにも、同じ申し出をした彼に。
初めて私は、断りを入れた。

分かったよ、と。応える電話の向こうの声は静かだった。




慣れないと。

彼の手を離す、自分に。








深呼吸をして、出窓を離れた。

夕方から、天気が崩れるという予報だったけれど。
ジミーチュウのヒールを履いていこう。



背筋を伸ばして向き合って。

愛した人に、大きく手を振る。