手に入れて初めて、違うと分かる。
大人になって増えたな。世にも悲しい、この症状。
皮肉なことに。
私を“情”から断ち切ったのは、夢にまで見た恋人からのプロポーズだった。
「そっか・・・決めたんだね。」
電話の向こうで。眞子は静かに、相槌をくれた。
よく晴れた、日曜日の午後。私はこれから、柊介に会いに行く。
『決めたっていうか、気付いたっていう感覚かなぁ。』
「気づいた?」
お気に入りの、Chestyのワンピースにした。
甘すぎないネイビーの総レース。柊介がいつか、とても似合うと言ってくれたもの。
『私ね、嬉しいと思わなかったの。』
三年を過ごしてくれた柊介に。
心からの、礼儀と感謝を込めて。
『勿論、盛り上がるような感覚はあったよ?わー、プロポーズされたっ!っていう。だけど何ていうか・・・一方で、夢から覚めたような自分もいて。』
ミキモトの淡水パールは。
初夏の光を浴びて、耳朶で柔らかく光る。
『ああ、この人じゃないんだって。私には、もう柊介じゃなくなってたんだって。』
「・・・なるほどね。」
小さく、鼻を啜り上げる音が聞こえて。
相変わらずな親友に、胸が穏やかに痛んだ。
「私さ、今回の件で清宮さんのこと大っ嫌いになったのよ。」
『うん。知ってる。笑』
「また十和子に近づいて来た時も、何考えてんの?って思ったし、ヨリ戻すなんて言われたら絶対反対だったわけ。」
“だった”。
自然と背筋が伸びた。
「だけどあの人、変わったよね。
昔はもっと、高飛車で敷居の高い感じでさ。格好良くはあったけど、それなりにいけ好かない野郎だったのに。今回の件で、ガムシャラに十和を追いかける姿を見てたら___________」
浮かぶ。
昔の、気位が高かった柊介と。
私のために、夜道に跪いた最後の姿。
「こんな可愛いところもあったんだな、って。十和のために変わろうとしてるんだなって、悪くない印象だった。」
『うん。』
私も、悪くなかったよ。
声には出さず、胸の内で応えた。
「それにつられて、十和も変わったしさ。」
『私?』
思わず、リップをなぞるブラシが止まる。
「そ。あんたもどっちかって言うと、格好付けなところがあったじゃない。」
『えぇ?笑』
こんな言いがかりも、悪い気がしない。
親友同士でだけ通じ合える、本音の女子トーク。
「やだ、どうしよう・・・♡とかさ。もう、困っちゃう・・・♡とかさ。」
『そんな言い方してない!笑』
「してるしてる。男は、十和のそういう奥ゆかしさとか、危なげな感じとかが堪んないんだよね、きっと。特にエリーとか、もう目の中に入れても痛くねー!ってくらいデレてるし。」
『・・・別にデレてなんて、』
「清宮さんとの一件があって、十和もだいぶ変わったよ。
しっかりしたっていうか・・・。」