呼吸が浅い。喉が痛い。
何か分からない。
だけど、確実に何かを決めたような強い瞳に。
私の身体も、確実に何かを察してる。
柊「俺は、評価とか結果とか、そんなことばかり気にしていたんだ。」
柊介の声は。
柊「周りにどう思われるか、どう功績を残すのか。そればかり気にして、つまらない格好をつけてきたんだよ。」
夜の空気を真っ直ぐに切り裂いて。
静かだけど、凛と響く。
柊「ダサい奴だと思われたくなかった。弱いところも情け無いところも、存在しない強い人間だと思われたかった。必死で隠して、自分を偽って___________その結果、間違った事をして十和を傷付けた。」
『・・・柊介、もうい、』
柊「許されないと分かってる。犯した罪は一生消えない。
だけど、信じて欲しいのは___________俺のその見栄の中心に居たのは、いつだって君なんだ。」
もういいよ、と。
仲裁しようとした声は、より力のこもった口調に撥ね付けられた。
柊介が、地べたに膝をつくなんて。
こんなところに跪いて、懺悔をするなんて。
目の前で繰り広げられる、信じられない光景を。私はただ見つめるしか出来ない。
柊「死ぬほど、後悔した。君を失いそうになった事ではなくて。君を、この手で傷付けた事を。」
奥深く、突かれた。
痛ましい瞳に。そこに、タテマエではない柊介の真意が溢れていた。
柊「十和子の事だから、自分にも矛先を向けるだろうと思った。そうさせた自分が悪いなんて言い出すんじゃないかと・・・そんな事は耐えられなかった。
だから、何とかしてリカバリーしなければと思った。なりふり構わず、取り返さないとと思ったんだ。
君がどれだけ素晴らしくて、申し分ない女性なのかを。余所見をしたこの俺が、どれだけ愚かだったのかを。もう一度、全て伝えようと思ったんだ。」
蘇る。
あの誕生日の夜から、今日までの柊介の姿が。
時には強引に、時には狡猾に。
滑稽に見えたって、私を追いかけるのをやめなかったのは。
そんな気持ちが、込められていたからだったんだ。
柊「不思議と・・・、こういう言い方は失礼かもしれないけれど。
不思議と、俺はそうする中でどんどん見栄が外れていくようで。十和子とも、格好付けずに向き合えるようになっていった気がした。」
『うん・・・。』
柊「格好悪かったろう。笑」
つられて微笑む。
私だって、と言いかけて言い淀んだ。
私だって、決して可愛い彼女じゃなかったはず。キレて暴れて、やり返すように他の人と夜を過ごして。全身で柊介を拒絶した。
そんな私を、柊介はどう思ったろう。
だけど私は。
そんな私をがむしゃらに追いかけてくる柊介も、嫌いにはなれなかったんだ。
解けそうになる涙腺を引き締めるように。
ギュッと唇を噛んだ。
柊「この数ヶ月。十和と離れて過ごして、どれだけ自分がくだらなかったかを思い知ったよ。
君がいないと意味がない。タテマエとか格好とか、心底必要のないものだと思えた。」
それなのに、一向に目を逸らさず続ける柊介の瞳が、あまりに熱いから。
やっぱり解けて、泣きそうになる。