いつの間にか、しりとりなんて口ずさんで。

マンションが近づく頃から、どちらともなく歩みを遅めた。




楽し、かった。

響月を飛び出した時が嘘のように、気持ちはグンと軽くなっていて。
これは間違いなく。サンドバッグのように受けてくれた、柊介のおかげだと思えた。

ありがとう、と。
言えればいいのに、伝わっている事を願うばかりで声に出て来ない。



『・・・。』


紛れもなく、マンションのエントランスへ着いてしまって。
足元を見つめたまま、立ち止まった。


柊「・・・。」


柊介も、なにも言わないまま歩を止める。


どうしよう。何時間、ここまで歩いて来た?ここまで送ってもらって、家にも上げずに「じゃあね」なんて冷たすぎる?

だけど、それとこれとは別だよね。
私、何流されそうになってるんだ。


ていうか。

どこに、流されそうになってる?





『送ってくれてありがとう!』


波立ち始めた心を振り切るように。
意を決して、努めて明るく声を出した。


柊「おやすみ。」


言い表すなら。
慈しみを浮かべた瞳と目が合って、思わず怯みそうになる。



『うん!おやすみ!』


もう一度、振り切るように。
力を込めて、手を振った。




エントランスを駆け上がる。

このまま振り返らずにいよう。オートロックを開けて、中に駆け込んで。

きっと疲れてるんだ。疲れた身体に、あんなに優しい目。
必要以上に効いてしまうに決まってる______________________












「十和!」




吸引力。

魔法のように、声に呼ばれて体が止まる。




振り返る。夜の闇を、ゆっくりと。






『______________________!』





辺り一面が、一様に震えた。


漆黒の夜闇を、舞台幕として携えて。







『どうし、たの・・・、』


言葉が続かない。







階段下、歩道に跪いて真っ直ぐに私を見上げる




柊介が、いた。