#眞子side
多分ってなに?!
そう思うのに、目がチカチカしてうまく突っ込めない。
悔しい。負けちゃう。
焦る。どんどん焦る。
こんなのいつもの私じゃないっ!!!汗
『意気地なし!!』
飛び出した言葉は、苦し紛れに響いた。
「は?」
『要は、廣井さんは意気地なしなんですよ。酔ってることにしないと、キスもできないんでしょ?で、酒のせいにすれば、部下に手を出した罪も乗り切れると。』
窓の外の景色が、見慣れて流れ始める。
もう直ぐ私のマンションが見える。
そのことが、更に焦りを煽るようだった。
「いや・・・、別に、そういうわけじゃないけど。」
『嘘!』
バックミラー越しに、運転手の方と目が合う。
今更ながら、好き勝手に騒いでいた声を抑える。
『間違いないもん。廣井さんは、酔ったフリしないとキスも出来ない意気地なし。』
「違うって。汗」
『違くない。』
「出来るけど。」
『出来ねー、』
鼻についた香りに、顔を上げた。
いつの間にか。
声色が静かに変わったことを。
見逃した私の前に立ちはだかる、黒い人影。
レッドローズの香りが私を見下ろす。
「出来るって。」
見上げた、その近さに。
あの夜の唇の熱がぶり返す。
『・・・出来ないくせに、』
「していいなら、」
それでも抗おうとする、往生際の悪さは。
「このまま、するけど。」
息も止まる近さに、更なる窮地へ追い込まれて。
『出来ないも、』
濡れた音が塞いだ。
私の情慾の
一番深いところを押す、あの音が。
『・・・ふっ、』
追われる。
追い返す間もなく、取り上げられていく。
非常階段に、暗いタクシーの小さな部屋。
全然好みじゃない。
全然ロマンティックじゃない。
それなのに
駆け巡る、この熱は何?