#眞子side
負け、た。
言葉にも態度にも仕草にも。
私を黙らせるだけの要素が、其処彼処に散りばめられていた。
『・・・いい、です。』
首を振って、iPhoneが引き下がったのを見届けて。
シートに深く脱力する。
見るわけない。
付き合ってるわけでもないのに、廣井さんの携帯をチェックする権利なんてないし。
それなのに、当たり前のように差し出して。
いとも簡単に、ジャジャ馬な私の息の根を止めた。
なんだかもう。
やばいくらいに、完敗だ。
『・・・つーかキモい。赤の他人に、“見る?”とか言って携帯差し出してくる男、キモい!』
「お前ね。汗
そうやっていつも、すぐ人に“キモい”と言うのはやめなさい。」
『廣井さんにしか言ってないんで、ご安心を。』
「ますます不安だわ!笑」
気付けば、いつもの調子を引き出されていて。
普段通りの私が、キャンキャンと絡む。
普段通りの廣井さんが、それを横顔で笑い飛ばす。
もしかして、手の平で転がされてる?
廣井さんにそんなの、悔しい。
「わー、すげぇ月!」
だけどそこまで、悪くもない。
「見える?」
同じ場所にいるんだから、見えるに決まってる。
それでも屈んで窓を譲るこの人に、私は嬉しくなる。
『・・・わっ!本当だ、めちゃくちゃ綺麗!!すごい満月、』
そのまま見上げた笑顔が、やけに優しく見えて息が止まる。
なんだ、今日は。
ことごとくに完敗だ。