#眞子side


なんて事ない顔して、いつものように誘っておきながら。

タクシーの中では、何も喋らずにただ窓の外を見ている。



珍しい沈黙に、居心地が悪い。
そうかと思えば、震えた携帯にはいち早く反応して画面を覗き込むから。




『感じ悪いな。』


思わず、胸の内の独り言が声に出た。


「え?」

『・・・人といるのに携帯ばっか弄って。』


思わず、『私といるのに』なんて口走りそうになって。
慌てて本音をすり替える。



「悪い、仕事の連絡だよ。今日は本社会議で動きが多くて、」

『嘘。この前もチョコチョコ携帯見てたじゃん。』


“この前”。
自分で持ち出しておきながら、瞬間唇は熱を持った。


「この前?俺、携帯見てた?」

『見てたわっ!ニヤケた顔でチョコチョコ!』


“この前”、であっさり通じた。

そんなことに跳ねた心に、焦る。



「だとしたら、多分それも仕事の連絡だ。しかも、別にニヤケてなんて___________」

『あんな遅くに仕事の連絡?金髪の元カノからの連絡だったんじゃないの?』



言ったそばから、しまったと思った。

うわ、何、今の。
恋人気取りの言いがかりだ。



「___________いや、それはない。間違いなく仕事のやり取りだよ。」

『なんでそんな言い切れ、』

「お前はそうやって煩いからさ。」



“煩い”のワードに。
勢いよく振り返れば、その表情は平然としていた。



「いつもそうやって、俺が構わなくなると女かって言うからさ。」

『・・・!べっ、別に構われなくなったからじゃ、』

「だから、意識して気をつけてるんだよ。須藤がいる時は、勘違いさせないように携帯は極力触らない。
それでも俺があの時触ったなら、間違いなく仕事の連絡だったと思う。」




な、なに今の。

あっけらかんと返された台詞の中に。
ワンセンテンスの中に、目が眩むほどの何かが沢山___________







「見る?」






差し出されたiPhoneに。

言葉も息も、詰まった。