#眞子side
想定内だったのは、十和子と清宮さんの抜けた宴は瞬く間にお開きになった事。
想定外、だったのは。
『ちょっ、え?!なんで?!』
エ「仕方ないよ。この人たち、飲んでるもん。」
この人たち、が指すのは。
とても飲んだとは思えないほど涼しい顔の八坂さんと、廣井さんの足元(極力視界に入れたくない)。
お店を出て、真っ直ぐ大通りに向かい始めた三人を前に。
私は一人、困惑真っ只中。
『あんな良い車を?!このまま置いて帰るって言うんですか?!?!』
八坂さんのゴルフは、メタリックなホワイトカラーだった。
合コンで聞いたことがある。あれは受注生産でしか頼めない色!!
エ「大丈夫だよ、俺もここにはよく置いて帰るもん。」
まぁ、ゴルフじゃないけど。
そう続くエリーの言葉は、もう入ってこない。
やばい。ていうか、ゴルフでもゴルフじゃなくても、もうどうでもいいよ。
八坂さんも廣井さんも車を置いて帰るなら、それぞれみんなタクシーになる。
それが困るんだよ!!!涙
だって。
八「江里。」
エ「じゃね、須藤。また月曜。」
『ちょっ、エリー!裏切り者!!涙』
八坂さんの車に乗りたい、も。
廣井さんの車には乗りたくない、も。
廣井さんと同じ方面のタクシーに乗らなくて済む理由が無くなってしまう。
タクシーを止めた八坂さんに、当たり前のように呼ばれて。当たり前に松葉杖を踏み出すエリーに慌てて縋る。
『お願い!二人にしないでっ。汗
今日だけこっちに乗って帰ってよ。』
エ「えー・・・無理無理。今日は足が痛いもん。」
『さっきまで平気そうだったじゃんっ!汗』
エ「藤澤がいたからね。痩せ我慢。」
嘘でしょ?!と続ける私を他所に、後方へ鉄壁の王子様スマイル。
エ「じゃ、廣井さんお疲れさまです。失礼します。」
廣井さんは、会釈だけ返したんだろう。
エリーも頭を下げて、うまいこと松葉杖を操ってタクシーへ乗り込んでしまった。
呆気なく立ち去ったタクシーを前に、立ち竦む。
ふ、振り返りたくない・・・。汗
気まずすぎて、あれからずっと接触を避けて来たのに。
ここへ来て、しかも二人きりになってしまうなんて。
どうしよう、私なんて置いて勝手に帰ってくんないかな。
気まずい30分を過ごすくらいなら、自腹で帰路についた方がずっとマシ・・・
廣「須藤。」
『はいぃっ!!』
警戒のあまり、飛び跳ねて振り返ってしまった。
いつの間にタクシーを止めていたのか、ドアを押さえた廣井さんの姿。
廣「・・・ぶっ。笑」
キョトンとしていた顔が一変。
顔を背けて吹き出した。
廣「なんだ、それ。元気だな。笑」
今の私、相当滑稽だったんだな、と。
今更に恥ずかしくさせるほど、クシャクシャに笑う。
なぜか、私の胸は。
廣「俺はこのまま帰るけど。須藤はどうする?」
この見慣れた笑顔に、柔らかく撫で落ちる。
廣「乗って帰る?」
キュン、なんて。
フザケタ音を立てながら。
踏み出した一歩は、フワリと妙な浮遊感。
月がヤケに大きく見えて。
特別な夜だと空耳が聞こえて。
飲み過ぎたせいだと、言い聞かせる。