馬鹿じゃないの?!汗
轢かれる!!!!!

開いた口が塞がらず、ただただ彼の到着を待つ。
死ぬ気?、と。通りすがる人の声が聞こえた。



けたたましいクラクションの中を走り切ってきた彼を、正気かと問い正そうと詰め寄ると。





「十和子!」



血相を変えた表情で、逆に手首を掴まれた。


『なっ、なに?!汗』

「泣いているのか?!」


なにが?!

返そうとすれば、その隙にグッと引き寄せられる。



「大丈夫か?どうした?」


私の驚きも抵抗も、ちっとも伝わっていないかのように。
今度は両頬を捉えて、真正面から顔を覗かれる。

周囲の視線が、痛い。


『ちょっ、・・・、ちょっと、やめて。』


額に汗を浮かべて、朝は綺麗にセットされていた前髪も崩れ落として。
肩で息をしながらも、柊介は私を離さない。



「泣いて・・・ない?」


不安な色の瞳で、まだなお私を確かめる。



『泣いてなんてないよっ。
何で?ていうか一体何?こんな事して危ないでしょ?!』

「いや・・・、ごめん。泣いているように見えたから。」




慌てて、私を離して。
咎められた子供のような表情に、やっと気付く。

もしかしたら、さっき目を擦ったのが。

泣いているように見えた?





『・・・大丈夫。』

「そう。ならいいんだよ。」

『それより、どうしてここにいるの?』


何となく。私を追って来たんじゃないかという気配を感じながらも、念のため問うてみる。



「十和子が帰ったって聞いて、慌てて追いかけて来たんだよ。」


帰ったって聞いた?

誰にだろう。ここに来て八坂さんだったら、お節介さにほとほと嫌気がさす。



「どうした?勝手に帰ったりして、らしくないじゃないか。」

『らしくないこと、したらいけないの?』



生じた苛立ちを、そのままムッとぶつけたのに。



「構わないよ。何だって、俺には好きにすればいい。」



顔色一つ変えない即答に、その矛先を見失う。

彼の全身から、責められているのではなくて、本当に心配で追われたのだと伝わる。
なりふり構わず、六本木を駆け抜けて来たんだろう柊介の姿が目に浮かんだ。


胸が締まるのに。
それでも私は、素直になれない。









二度目の、青信号に変わった交差点を。



『じゃあいいじゃない、好きにさせてよ。』

「十和、待って。」



踏み出す人に紛れて、歩き出した。