それにしても広いお店だな。

ぼうっと歩いていたら、ぐるりと廊下を回っただけで、また同じ部屋の前に戻ってしまった。

今度は慎重に標識を見上げながら歩いて。今朝は早かったから疲れたなぁ、なんて欠伸まで出かけて。
油断して角を曲がったところで___________よく知る人影に出くわした。


・・・!!


思わず、足を引っ込めて角前へ戻る。
壁へ背を付けて、あげそうになった声を息にして吐き出した。



びっ、びっくりした・・・。ここにいたんだ。


八坂、さん。









話し声が聞こえる。
だけど、他に誰もいなかったよね。

ってことは、電話・・・?




そろそろと身体の向きを変えて、目線だけを壁から覗かせれば。
八坂さんは、電話を片手に頷いていた。



「___________それは、こちらで手配しますよ。」


敬語。真剣な眼差しに、集中した気配。
大事な仕事の電話かも知れないと思った。



どうしよう。化粧室って、ここを通らないと行けないのかな。
何となく、この様子の八坂さんの前は横切りにくい。



「話はもう通してあるので、問題ありません。」


かと言って、ここでこのまま聞き耳を立ててるわけにもいかないし。
まだまだ終わりそうな、気配もないし。


よし、顔を下げて一気に走り抜けよう。





「__________だから、任せろって言ってるだろう。」



電話に夢中になってるみたいだから案外分からないかも、なんて。

いつの間にか変わった言葉尻にも気づかない、愚かな私に聞こえた、次の言葉は。









「貴女はいつも、そうやって無理をする。」







酔いの抜かりを、凍らせた。