長引いた役員会議の後を片付けて。
資料を抱えて一人戻ったフロアには、もう誰も残っていなかった。
そっか。今日はノー残業デーだったんだ。
独り言ちて、何とか顎で抑えていたノートPCをキャビネットへ閉まった。
私も帰っちゃおうかなぁ。議事録をまとめるのは、明日にして。
あと、今日中の仕事は何が残ってたっけ。
PCを納めたキャビネットに、鍵を閉めて。
振り返ったところで、気づく。
主人を失って、立ち並ぶデスクの上に。一際目立つ、白い紙袋。
『なにあれ・・・?』
誰かの忘れ物?
ピンク色の紐を両耳のように垂らして、側面には“W”の刷り込み。
近付くに連れて認証する。
ああ。
あれは、ヴィタメールの紙袋だ。
もしかしたら、隣の先輩のデスク上にある見間違いかと。
そうも思ったけれど、向き合ったそれはちゃんと私のPC前に鎮座していた。
視線を落とす。紙袋の中、カカオ色の小箱。
誰か、役員からのお土産かな?
私の机上にあるっていうことは、牧さんから?
ソッと、辺りを見回して。
開けてみてもいいかな・・・?
小箱を、丁寧に取り上げて。開けた隙間から、ゆっくりと中を覗う。
『かわいい・・・。』
“ロイヤル・ショコラ”。
色鮮やかなピラミッドたちが、得意げに輝く。
一度、通りかかった店先で。ショーケースの中のこの子たちと、目が合ったことがある。
何て可愛いショコラなんだろうと胸トキめいたけれど。
甘いものには目がないのに、昔から洋菓子は身体に合わないようで。
特にチョコレートは、効果てきめん。口にすれば、翌日には必ず頬に現れる赤いニキビ。
・・・大好きすぎて、少しでは止まらなくて。結局食べ過ぎてしまう、自分のせいでもあるけど。
それもあって、普段は摂取するなら出来るだけ和菓子にしてる。
久々に目にする、美しいショコラを前に。胸が高く鳴っている。
どうしよう。可愛い。一つ、口にしてみたい。
だけどこれ、私が食べていいのかな?一体誰が__________
何か、手がかりになるものはないかと。
再度覗き込んだ袋の底に、見慣れぬものが転がっている事に気付く。