#眞子side
身体がはね退けられた。
欲情に走り、鈍った意識の中で。視界が彼から離れていく。
あーあ、やっぱり拒絶されたか。
そう、ぼんやりと思っていたら。
次に感じたのは、冷たい壁の感触だった。
そこで、やっと事態を解す。
両手首から、壁に貼り付けられて。
自由を、取り上げられた事を。
「酔っているのが自分だけだと思うなよ。」
この人の声は、こんなに低かったっけ。
この人の顔は、こんなに怖かったっけ。
そんなバカな事を思いかけた時、瞬時に呼吸さえ奪われた。
『・・・んっ、・・・ふっ』
漏れる水音。
流れ込んでくるウィスキーの香り。
髪深くまで差し込まれた指先が、私の頭を逃さない。
口元にかかる吐息が熱い。
薄眼を開いてみようか。
一瞬戻りかけた理性が悪戯に閃いた。
だけど、きっとあの童顔でこんな口付けをかましているのかと思うと。
滴り落ちるほどの狂熱。
それがさらに煽るなんて。
私、オカシイ?
むしろ、この冷静こそが邪念に思える。
強く目を瞑って、より一層唇を開いた。
これまでの、幼稚な学習なんて一蹴される。
圧倒的な経験値の差を見せつけられる。
これがキスなら。
こんな欲情、私は知らない。
崩れていく身体を彼が支える。
されるがままに、縋り付く。
色情にまみれる。
命乞いが過ぎる。
それでもこのキスから、離れたくない。