#眞子side
地面が波打って見える。
閉まったエレベーターの扉も、どんどん左に傾いて________________
「________________おいっ。」
左腕に、安定感が滑り込んだ。
廣井さんに傾いた身体を支えられる。
『やばい・・・クソ気持ち悪いです。』
「だろうな。」
座れるか、と廣井さんが私に合わせて腰を落とす。
下を向いて息を荒げる背中を、大きな手の平でさすってくれる。
『すいません・・・』
「いいから。喋るな。」
行きつけの近所のワインバーで、僅かな緊張感さえなくなったからか。
家飲みする感覚で、多種のワインをごちゃ混ぜに飲みまくった。
途中から、廣井さんが際限なく優しく怒らなくなっていくのが嬉しくって。
所謂、悪酔いが目に見えるまで。
飲んで飲んで、飲みまくった。
オレンジ色に点滅する階数表示が近づいて来るのが見えて。
『大丈夫、一旦立つ。』と、廣井さんの介助を得て立ち上がったものの。
またしても、満員のエレベーター。飲食店がひしめく、8階まであるこのビルで。
2階のここで扉が開く頃には、乗車率200%。
もうこの見送りを5回は繰り返してる。
『階段で、下りましょっか?』
エレベーター脇、ワインケースが積まれた隣の非常階段を指した。
「いやいや、無理だろ。」
『なんれ?』
「そんな足で下ろすのは危ないから。
別に急いでないしエレベーターを待とう。」
『けどこのままじゃ、いつ乗れるか分かんないし。』
「他の店も閉店時間が重なってるんだろう、もう直ぐ乗れるよ。」
そこで、また。
廣井さんは震えたらしい携帯を取り出して、画面に視線を落とした。
________________カチン。
多分、きっとまた女。
さっきからちょこちょこ携帯を気にしてる。
私のこと、心配してるの?心配してないの?
私のこと、心配してるのはフリですか?
『大丈夫らもんっ・・・!』
支えられていた左腕を振り切って、非常階段の扉を押す。
意外に軽く開いたそこで、一瞬バランスを崩すけれど。
手すりにしがみついて、なんとか踏み堪える。
気を落ち着かせて、一歩目の段差を捉えようとして。
「須藤!」
期待どおり、追いかけて来た。
慌て顔を振り返る。