元はと言えば。

なぜ、こんなことになってるの?



『今更なんだけど・・・どうして、今夜私がここにいるって分かったの?』


このおかしなメンバー。
柊介の突撃で始まった、今夜。



柊「ああ、それは、」

八「俺が言った。」



耳を、疑った。


いま、八坂さん、何か言った?


そのレベルで顔を上げたら、八坂さんはこちらを見ていた。




『・・・え、』

八「お前がシャワーを浴びてる時に、清宮から電話がかかってきて。
十和子といるか聞かれたから、“十和子ならシャワーを浴びてる”と。俺が言った。」

『な・・・ば・・・』



なに、馬鹿な事言ってるんですか?

そう言いたかったのに、声が続かなかった。



八「殺してやる、って聞こえて。すぐに電話が切れたけど。」

柊「あんな物騒な言葉を口にしたのは初めてだよ。」



あたかも、自分が被害者かのように。
憂いを込めた眼差しで髪に触れようとしてきた柊介の手を。

払い、のけた。




『・・・本気で言ってます?八坂さんが言ったの?』

八「ああ。」

『なんで?なんで言ったの?』



今の柊介の立ち位置や、私とのイザコザや。
そんなものは、一旦置いておくとして。


こんな時間に、私といるとか。私がシャワーを浴びてるとか。

そんなことを言えば、柊介が動転するのは当たり前で。
私でさえ、そんなことを聞かされた柊介が気の毒だと思う。柊介が飛んで来るのは目に見えていたはず。

それなのに、なんで________________







八「別に?やましい事なんて、ないから。」







シン、と。


身体が、冷えた。






柊「まぁ、今思えばそれで助かったよ。それで俺もこうして駆け付けられたわけだし。」


いつもなら、耳心地のいい柊介の声が。遠くで空回りして聞こえる。


八「清宮、この江里の施策書だけど________________」


何事もなかったかのように仕事に戻る八坂さんが。

さっきまでと打って変わって、モノクロに変わる。





『・・・そうですよね、やましい事なんて何もないですもんね。』


やっと絞り出した言葉は、タイミングをズラしまくっていた。


柊「分かってるよ、十和子。大丈夫だから。」


柊介の言葉は空回りして聞こえるのに。


八「無駄な嘘なんてついても、面倒なだけだろう。」



“無駄な嘘”“面倒”

どうしてこの人の言葉は、いちいち胸を突き刺すんだろう。










胃の奥に広がる苦々しさが気付かせるのは、愚かな予感。


私は今夜の運びに、この人に。




期待を



抱いていたんだ________________。