わら、笑った??
なんで笑われたんだろ、必死すぎたか________________
「大丈夫だよ。」
次に感じたのは、頭頂部に温かい重み。
思考を取り上げた犯人。鏡の中の様子によると、それは。
“頭ポン”
私の頭に手を置いて微笑む、社内史上最高の男。
一瞬で射抜かれた私は、もう言葉もない。ただボンヤリと、下は身につけたまま浴室へ消えて行く八坂さんを見送った。
放心状態。
微笑みと、頭の柔らかさと、あの声だけがリフレイン。
“大丈夫だよ。”
耳がくすぐったい。
あの人があんなに優しく笑うなんて。
シャワーの水音が鼓膜を叩きつけて、ようやく意識を取り戻す。
いかん、私!意識飛んでた。汗
思わず、ボンヤリ。あっちの世界に行きかけていた・・・。
止めていたドライヤーのスイッチを入れ直す。
磨りガラスに目を向けてしまうと、八坂さんの肉体美がシルエットで覗く。
急いでここを出なければ!!汗
一心不乱にドライヤーを振り回し。
美しすぎる残像を吹き飛ばそうと、風量をマックスまで上げて。
未だ逆上せた頭で、逃げるようにバスルームを後にした。
なんか冷たいもの飲みたい・・・。涙
お粥を作る際、好きに使えと言われていた冷蔵庫をソッと開ける。
見事に、ビールとミネラルウォーターだけが整然と立ち並ぶ室内。
八坂さんって、普段何を食べて生活してるんだろう?この様子じゃ100%外食ってことだよね?
そんなんじゃ抵抗力も落ちるし。ひどい風邪もひいちゃうわけだよ・・・。
胸が痛んだ。今日彼の仕事ぶりを見て、改めてその多忙を感じていたから。
だけど、私には意見する資格なんてないし。
ビールは勿論憚られたので、ミネラルウォーターを手にして戸を閉めた。
キャップを回して、唇をつけたところで________________
“ピンポーン”
ん?
何の、音??
“ピンポーン”
これは、チャイム?
音の正体を認識しかけたところで、その音は忽ち間隔を詰める。
“ピンポン”“ピンポン”ピンポン“”
なに?汗
突如始まる追随に、身動きが取れない。
部屋を見回す。テーブルの上に転がっていた、ロレックスのブラックベゼルが目に入って慌てて取り上げて________________
24:08。
身体が冷える。
こんな時間に、訪問者。一刻も許さない、追い詰めるようなやり方のチャイムが鳴り響く。