ドライヤーの熱風で、高級シャンプーの香りが舞い上がる。


“社内史上、最高の男”だもんな。


こんなシチュエーション、慣れっこなのかも。女の子だって、しょっちゅう家に来てるのかも。
日帝商事は創業70周年。その歴史の中で最高の称号を得るんだもん、百戦錬磨でもおかしくない。




だけど、歯ブラシは一本しかないよ?


________いやいや、“だけど”って何!汗
私、何か期待してない?!なになに、この期待は!!汗


散れ!期待、散れ!!
風量を強めて頭を振り回していたら、去ったはずの八坂さんが現れた。




「悪い。」

『あ、いえ。』


思わず、言われるままに前に寄せて後ろを通す。
忘れ物?なにか取りに来た?


そう、目で追っていたら________




________________!!!!


『ちょっ・・・!!』



躊躇いもなく、すぐ隣でスウェットの上を頭から脱いだ。
突如露わになる、引き締まった筋肉美。



『なっ、なっ、何やってるんですかっ!!』

「は?俺も浴びようかなと思って。」



ていうか、背中広っ!!!胸板厚っ!!!!!汗



『だめ!やめてっ!汗』


“やめて”?
我ながら、何が?って感じたけれど。目の前で繰り広げられようとしている彫刻ストリップ。
官能を止めるには、その言葉しか思い当たらなくて。



鏡越しで目が合うのは、一寸足りとも位置を間違えていない両乳首・・・

・・・ではなくてっ!!汗

訝しげに眉を潜めている、身体までパーフェクトなモンスター。




「なんで。」

『えっ、』

「なんでシャワー浴びたらいけねぇんだよ。」



そっちか。そっちに首を捻ってくれてたのね。

や、別に浴びたらいけないわけではなくて。
上の次は下を脱ぐのではないかと、フシダラな予知が働いたわけで。

だけどそんな恥ずかしいこと、言えないし!涙



『・・・えっと、ほら、熱がある時の入浴って賛否両論あるでしょう?シャワーだけだと、ますます身体冷えちゃうかもしれないし。
多分熱があるだろうから、今日はやめと、』




苦し紛れな言い訳が、続かなくなったのは。

鏡越しの濡れた瞳が、フワッと柔らかく細まったから。




サディスティックな涙黒子が。


柔らかさに、その色を変えたから。