思いっきりドアを開ければ、

ひ、広っ!!!涙


あまりに開けたバスルームに面食らう。だけど、背後から追ってくる「タオルは棚の上。」という声に『分かりました!!』と急いでドアを閉めるしかなかった。



広々したシャンプードレッサーに、大きな鏡。
シェービングクリームに、コンタクトの洗浄液。
水回りはキチンと拭き取られていて、白いタイルには清潔感が溢れていた。


見たことのない化粧水は、高そうな瓶入り。
八坂さんの美肌の秘密はこれ・・・?!ソッと手に取ろうとして、たった一本で並ぶ歯ブラシが目に入って。







私、いま。

八坂さんの相当なパーソナルスペースにいる。




固まる。
彼方此方から、八坂さんの日常が話し掛けてくる。

やばい。

ここに長居したら身体が保たない!!汗




化粧水なんてどうでもいい。とにかく早く、ここを抜け出さないと!!
焦りで震える指先。ポンテヴェキオのピアスを外して、スカートのジッパーを下ろして。

棚からタオルを取り出せば、よく知る八坂さんの柔軟剤の匂いが香り立って。

同じタオルで身体を包まれるんだ________



気づいてしまえば、思考回路はショート寸前。息も絶え絶えに、下着を脱いで見えないようにタオルで隠して。

早くも逆上せた頭で、磨りガラスのドアを押し開けた。















迷ったけれど、顔は洗わなかった。メイクを落としてしまっても、その後のスキンケア用品がないから。
それでも汗と蒸気で、何となくメイクは流れて軽くなった気がした。

シャンプーは、美容雑誌で見たことのある有名なノンシリコンのものが置いてあるのを見つけて。
これ、高いやつだよね?!なんてミーハー心が発動。テンション上がり気味にお借りした。




予想以上に、八坂さんの部屋着は大きくて。そう言えば下を借りていなかったと焦ったけれど、すっぽり膝まで隠してくれた。
とりあえず、これでいっか。

そんなことより、匂い。八坂さんの匂いに抱かれているようで落ち着かない。
一刻も早く私に馴染んでくれるよう、祈った。




鏡を覗いて、メイクポーチから取り出した眉ペンで眉だけ整えて。
ランチ用に持ち歩いてる、携帯歯ブラシセットで歯磨きも終えて。


『お風呂、ありがとうございました。』


濡れた髪のまま、リビングに顔を出した。
頬づえをついたまま、八坂さんが視線を上げる。


「ドライヤー、分かんなかった?」

『あ、や、そういうわけじゃ、』


軽々立ち上がって、首を回しながら。
私を追い越して洗面台に戻る背中を、慌てて追う。


「ん。」

『ありがとう、ございます・・・。』


メイクが薄くなってしまったせいか、真っ直ぐ顔が見れない。
差し出されたドライヤーだけを見つめて、受け取った。

なんだか、いちいちドキドキする。

それなのに、八坂さんは。




なんだか手慣れた様子で、ちっとも動揺している風もなくって。

私にドライヤーを手渡したらそれっきり。あっさり私を置いて、リビングに戻って行ってしまった。