#眞子side
嘘かと思って、聞き返した。
『え?本気で?』
もう何年くらい彼女いないんですか?
そう聞いたら。
「二ヶ月。」
平然と、即答された。
『それ全然最近じゃない?嘘でしょ?』
「何で嘘なんだよ。」
てっきり、廣井さんは万年フリーだと思い込んでいた。
私でさえ、一年半も彼氏いないのに。
妙に焦り出す。
『じゃあ、ノルウェーで彼女いたってこと?金髪美女?』
「金髪________ではなかったけど、まぁ向こうの人だね。」
『別れたの?日本に戻るから、捨てたんですか?』
「人聞き悪く言うな。笑
俺がフられたんだよ。一緒に来ないかって誘ったんだけど、いらないと。」
興味をそそられるネタではあったけど。
俺のことはいいよ、と次のカクテルを注文する仕草に柔らかく遮られた。
『・・・ねぇ、じゃあ浮気したことはあります?』
「俺はない。」
この人ならそうだろうなと。
何となく思えてしまうのは、年月の賜物。
『心変わりしたことは?』
「それはあるかもな。」
『心変わりは、彼女にとってはある意味浮気だったかも。』
「それを言われたら何も言えないけど。
そうなる前に、線引きしてたつもりだけどね。」
線引き、か。
冷たい言い方だけど、そうしてもらえた方がよっぽどいい。
『浮気されたことは?』
「ないと思いたいけど、それは分からないよなぁ。気づかなかっただけかもしれないし。」
『じゃあ、』
「エラく“浮気”に突っ込むな。笑」
グッ、と。
言葉を飲み込んだのは。
「男が全員、そういうわけじゃないから。」
また察知された気配に、心緩みそうになったから。
『・・・そうですか?私調べによると、大抵の男が浮気しますけど。』
あの、清宮さんだって浮気した。その事実が私を傷つけた。
十和子の泣き顔。疑心暗鬼。
可哀想で、過去の自分を思い出して胸が痛くて。
「大抵の男ってことは、浮気しない男の可能性も加味してるんだろう?」
『奇跡に近いと思ってますけど。』
「じゃあその奇跡に賭けろ。」
『賭けてられません、そんな流暢に。』
「須藤から目を離さない男を見つけろよ。」
『そんな人いる?!』
こんな私を愛してくれるような、海のように心の広い人が。
『見つからなかったら、どうしてくれるんですか?』
「大丈夫。俺が責任取ってやるよ。」
『・・・きも。』
「違うわ!笑
海営の男を誰か紹介してやるよ!!」
生クリームの口当たり。
甘ったるくて、苦い。
この酔いがずっと続けばいいのにと思う。
アレキサンダーは、恋の始まりと終わりに似てる。
「同じものにするか?」
囚われる。振り払おうとしない限り、ずっと。
『ううん________ギムレット。』
カクテルに思い出を浮かべるのは、もう沢山だ。
どうせ苦いなら、最初っから思いっきり苦い方がいい。
フレッシュなライムみたいな。喉越し爽やかな苦味なら、きっと傷痕なんて残らない。
そんな恋なら。
また、手を伸ばしてみてもいいかも。
それまではもう少しだけ。むやみやたらに焦らず。
「じゃあ俺は・・・アップルフレーズル。」
『ダサ。子供か。』
「うるせぇ!笑」
この、無害の中で。