目、乾いた・・・。
目を瞑って手を止めた。


後ろにあったソファの縁に背を預けたら、そういえば喉も渇いていたことに気付く。



お茶、入れよう。コンビニで買った緑茶パックを使って。

立ち上がる私にも目を止めず、相変わらずキーボードを叩き回っている隣人。
薄っすら赤い頬で、時々鼻をすすりながら。

薬、効いてるのかな?
熱を測ってほしい。体温計なんてないと、一蹴されたけれど。
触れた手の平の熱さは、尋常じゃなかった。






八坂さんには、緑茶ではなく生姜湯を作って。
湯気の登るマグを持って、隣に戻った。



「・・・なにこれ。」

『生姜湯です。あったまるから飲んでください。』



一瞬、ジッと未知の液体を睨んだ後。
マグに手を伸ばして、そろそろと唇をつける。



『美味しいですか?』


熱に濡れた瞳で、真剣な表情。

やばい、可愛_______________


「・・・うん。」


_______________くない!!!!!!!!汗

しっかりしろ、私!!!!!!!!!





『い、いつから具合悪かったんですか?仕事は?今日は休んだってことですよね?』


気を散らそうと、慌てて発したら。
行き場のない緑茶がテーブルに撒かれて、危うくPCが濡れるところだった。



「一昨日。接待で飲んで帰ったら、夜中吐いて。飲みすぎかと思ってたら、翌朝熱っぽかった。」

『一昨日_________。ああ!だから昨日、マスクしてたんですね?』



芸能人みたいだ、なんて思っていたけれど。
まさかその向こう側で、こんなに弱っていたなんて。



『休めばよかったのに。昨日無理したから、こんなにひどくなったんじゃないですか?』

「大事な打ち合わせがあったんだよ。廣井さん一人では行かせられなかった。」

『どうして?廣井さんもああ見えて、立派な大人ですよ?』



軽く冗談を含ませてみても。
彫刻のような横顔は、顔色一つ変えずに。



「無理。廣井さんは、中国語が出来ない。」

『_______________ええっ?!?!?!』

「だろ?ありえねぇよ、盲点だった。
前もって分かってたら通訳つけたの、」

『違う!汗』

「は?」

『てことは、八坂さん中国語も出来るんですか?!?!』





花形部署、海営だもん。英語は出来るんだろうと何となく思っていたけれど。

中国語まで?!?!汗
この端麗な顔で、中国語まで喋れるの?!?!
恐るべし、完璧モンスター。


次に目を丸くするのは、八坂さんの番。



「敢えて聞く。何語なら出来る?」

『・・・日本語です。』

「それは出来るとは言わない。」



だって、使うことないし。
牧さんが語学堪能だから、翻訳どころか通訳の手配すらした事がない。


『じゃ、じゃあ八坂さんはトライアングルですね!』

「それを言うならトリリンガル。」



ば、ばか丸出し・・・。汗
黙ろう。もう、黙って仕事しよう。

秘書検定、準一級なら持ってますよ?

そう言ってみようかと思ったけれど、“準”くらいじゃこのトップアスリートには並べない気がして。


ため息を吐いて、PC画面に戻ろうとした時。



「語学はやっておいた方がいい。うちの会社では昇格要件だから。」