“急な仕事で行けなくなってしまったの。
ごめんなさい。また連絡します。”
柊介へは、電話を鳴らしたけど繋がらなくって。
どこかホッとした気持ちで、メールを送った。
仕事なのも、急を要していたのも嘘じゃない。
後ろめたく感じてしまう気持ちを、そう繰り返して追い払った。
マンション裏のコンビニで、玉子とレトルトのご飯と。
和風だしと小葱を買って、走って部屋に戻った。
生活感のない部屋に、辛うじてあった真新しい小鍋で。
母直伝の、特製たまご粥を作る。
ご飯を食べるまで一旦寝ててください、と言ったのに。
八坂さんは肩にストールをかけたまま、PCに向かっていた。
私のストール。とりあえずあったかくして!と肩に掛けていったもの。
そのままにしてくれてる姿が、可愛いなんて思ってしまって。
『出来ました。』
「おせぇよ。」
減らず口も、鼻声だと可愛い。
丸眼鏡のままお粥を覗き込んだら、お粥の湯気で眼鏡が曇って。
ムッとした顔で眼鏡を外す仕草が可愛い。
そんなに口に入る?というほど、スプーンに山盛りお粥を盛る姿も可愛い。
・・・って!!!
私、可愛いばっかり思ってない?!?!汗
「あーーーーーーー。」
『なっ、なに?!味薄いですか?!』
いきなり声を出して、上を仰ぐから。
「いや、めちゃくちゃ美味い。」
焦ったのに、拍子抜け。
こんな素直な姿を見るのは初めてな気がして。
いちいち反応しそうになる胸を、必死で抑えつける。
『・・・まだ、ありますよ。お代わりする?』
「うん。」
勢いをつけて、ラスト何口かを大きくかき込む。
・・・うん、って。
うんって何!可愛いんですけど!!!涙
完璧モンスターの弱った姿。
眞子の言う、「イケメン×子供」の図式と同じくらい殺傷能力が高かった。
しっかりしろ、私!!
手伝いに来たんだから。殺傷されている場合ではない!!汗
食事の後、私がパウチから薬を取り出すのを大人しく見つめて。
言われるがままに3粒を水で流し込む従順な姿は、もうあまり見ないように努めた。
指示された通り、各種データベースにアクセスしながら数字を集計してソフトに落としていく。
八坂さんは、私が転送したファイルの何倍ものファイルを駆使しながら、一人で作業を続けていたようで。
昼間、たったあれだけの事をして十分手伝ったつもりでいた自分が恥ずかしくなる。
薬を飲んだ後も、八坂さんは寝ていない。どうなだめすかしても横にならないから、これは仕事が終わるまで休まないつもりだと悟る。
それなら、私がその分追い上げて、休ませるしかないから。
殆ど会話もせず、ただただ作業に没頭した。
二人にも広すぎる部屋には、キーボードを叩き回る音だけが響いていた。