妙な間。
ダルそうな八坂さんの姿が辛い。
こんな姿、簡単に見せるような人ではないのに。



『・・・。』


言ってしまえば、後には引けない。
そう分かっているから、私も唇を噛む。



「貸せって。」

『やっ・・・!』


握りしめていたUSBを取り上げられそうになって。
触れた手の熱さにギョッとした。


思わず。
堪えていた一言が、唇を割って出た。



『帰りません!』

「はぁっ?!」


言ってしまった!汗
そう思うのに、ボロボロと感情が。

雪崩のように、溢れ出す。



『手伝います。』

「・・・お前に出来ることは、」

『Accessが使えます。Excelも大体の事なら。牧さんのID権限が使えるから、社内のデータベースにも殆どアクセスできます。』

「・・・。」



自分に、これほどの売り文句があったとは。

それでも陥落しない目の前の男を。



『決算って言ってましたよね?なんなら、収益管理部に同期もいます。』



落とすために、必死で自分を売り込んで。




今までで一番、この人に認められたいし。

今までで一番、この人に必要とされたい。




何故だか分からないけれど。

今、どうしてもこの人と離れたくない。







「・・・もういいか、」

『たまご粥も、作れます!風邪に効くやつ!!』




お願いだから、私を。

選んで、頼って欲しい。








「・・・ぷっ。笑」


肩を震わせて。
また咳かと思えば、八坂さんは笑っていた。


完璧モンスターを陥落したのは、苦し紛れに絞り出した一言。






「じゃあ、まずはそれから。」






なんだか私。


泣きそうだ。