コンシェルジュ付きのエントランスに、展望エレベーター。
共有スペースのホールに置かれているソファはcassinaだと気づいて、目が白黒しそうになった。
八坂さん、どんなとこに住んでるのよっ・・・!汗
同じ会社の人間の家だとは、とても思えない。
柊介だってエリーだって、同年代の男性に比べたらウンといい暮らしをしていると思っていたけれど。
八坂さんのこの家は、明らかな社内格差を感じさせる。
課長代理って、そんなにお給料もらえるの?一般職の私の、五倍くらいもらってたりして・・・。汗
エレベーターガールまでいたらどうしよう。
身構えて待つ扉の向こうには、目の覚めるような美女がチワワを抱いていただけで。
芸能人?!汗
降りないところを見ると、前の階から上がって来た模様。
なんなの?このマンション、地下もあるってこと??
後ずさりしそうになる身体を引っ張って、乗り込んで。
教えられた23階のボタンを押しても、今度は光が付かないし反応しない。
庶民の指先は受け付けない設定・・・?
焦る心に拍車がかかって、涙目でボタンを連打していると。
「カードキー、持ってません?」
同席していた後ろの美女から、鈴のような声で話しかけられた。
「ここのエレベーターは、カードキーを翳して、居住階のボタンしか押せないんです。」
『カードキー、持ってません・・・。』
「そっか。じゃあ、暗証番号は分かります?それでも大丈夫。」
『ああ!』
ゆっくり持ち上がり始めた室内に、慌ててオートロック解除の際に使った7桁の番号をタップする。
その後23階のボタンを押すと、ようやくそこはオレンジ色に光った。
『光ったっ・・・!』
「よかった。笑
分かりにくいですよね、ここの作り。だから安心っていうのもあるんだけど。」
小首を傾げて笑った仕草に、息が止まる。
突風のような、色香。
透けるように白い肌に、アーモンド色の大きな瞳。
素顔ではないかと思わせる無垢さの中に、濡れた女っぽさが共存してる。
同じ女でありながら。
隣に立つだけで、冷や汗が出る。
絶対、芸能人だ。
女優?モデル?
なんにしても、メイク直しもせずにここに立っている自分が恥ずかしい。
USBを渡したら、とにかく早くここを出よう。
改めて、そう、決意。
どこからから視線を感じて、ふと美女の腕の中のチワワと目が合う。
これまた、彼女に負けない大きな瞳で私を見上げながら。小さな尻尾をピュンピュン揺らして。
“わたしは八坂さんの犬ですか?”
“違うの?”
八坂さんとの会話を思い出す。
もし、八坂さんに本当に私が犬のように映っているのなら。
私はどんな犬に見えているんだろう。
八坂さんに会う時はいつも、最悪なコンディションである私は。
23階で開いたエレベーターを降りる。
振り返って彼女に会釈をして、教えられた部屋番号を探しに走り出した。
とにかく早く、ここを去ろう。
今日だって、バッドコンディションに間違いはないんだから。