絶対に大声で驚くと思ったのに。
眞子の反応は、予想を大きく外れたものだった。
眞「そっか・・・。」
それだけ絞るように呟くと、何とも言えない表情で。
トマトラグーソースのペンネを、フォークの先で取り上げる。モッツアレラチーズが長く伸びたのに、それをそのままお皿に戻しては突き直す。
木曜日のブルーノートは、雨の日でも満員御礼で。
私たちは何とか滑り込んだいつもの席で、“ランチミーティング”を執り行う。
本日の議題は。
目下、エリーからの蕩ける告白について。
親友が、ある夜を境にオトコに変わった。
今も手の平が思い出す、組み敷かれた時に感じたエリーの重さ。
唇の温度。眼差し。名前を呼ぶ声の甘さ。
ときめきに溺れた週末の報告に、眞子は大騒ぎしてくれる__________
「・・・。」
はず、だったのに。
言葉少なく、なぜか重々しい反応の眞子に面食らう。
いけないことを言ってしまったのかと、不安になる。
『なんか、眞子、元気ない?』
「なんで?元気もりもり。」
とてもそうは思えない顔で、小さな溜め息。ついに、フォークを置いてしまった。
『もしかして怒ってる?』
「・・・。」
どうしよう。もしかしたら、すっごく空気の読めない話をしちゃった?
なにか嫌なことでもあったのかな。
こんな話、聞きたい気分じゃなかったのかも。
『ねぇ、ま、』
「煩い。感慨に浸ってんの。」
う、煩い?!汗
驚いて、ローストチキンを突く手を止め眞子を見れば。
『えっ、なに?!泣いてる?!』
「エリ〜〜よかった〜。やっと言えたのね〜〜。涙」
愛すべき親友は、親友仲間の卒業を祝して。
ハラハラと透明な涙を溢れさせていた。
エルダーフラワーのハーブティと、ココナッツシュガーを添えたアーモンドミルク。
もう何年も通っているのに、私たちの食後は変わらない。
『いつから知ってたの?』
「多分最初から。」
は、恥ずかしい・・・
そうとは露知らず、すっかり思い込んでいた。エリーの思いは、眞子にあるのだと。